第25章 ノア メモリー

「あっ！　見て下さい二人共…って何してんスか」

「き、急に大声出すなさ…！」

「び、吃驚した…っ」


　こっちを見てくるチャオジーに、青い顔でラビと揃って声を上げる。
　そんな私達の手は、しっかりお互いの服を握っていた。

　急に大声出したらビビるでしょ…！


「それよりあれ、見て下さい」

「あれ？」

「何？」


　チャオジーが指差す先を、ラビと共に目で追う。
　指差された先は廊下の突き当たりで薄暗い中、目を凝らす。
　するとその壁際にはぽつんと──


「…人形？」


　古惚けたドレスを着込んだ、女の子の人形が置かれていた。


「うへぁ、ボロボロじゃんか」

「結構古いもんなんスかね」

「なのかなぁ…」


　近付いて人形を見てみる。
　瓦礫の中に壊れた家具や食器なんかはあったけど、人形なんてなかったから。
　ぽつんと其処に座らされるように置かれた人形には少し違和感があった。

　極々普通の、布とプラスチックでできた女の子の人形。
　ボサボサになった髪から覗く顔は、人形独特のリアルさがある。


「此処に住んでいた誰かが、置いていったのかな…」


　煤汚れたそれは酷くボロボロで、崩れないように恐る恐る手に取って持ち上げてみる。
　人形って、こういう場所で見るとなんだかちょっと怖い。


『キャハハハハ』


「わぁあ！？」

「うえっ！？」

「っ！？」


　突如甲高い少女のような笑い声が響いて、思わず人形を取り落とした。


『キャハハハハ』


　落として床に転がった人形から、またその"声"が鳴り響く。


「なっ…ぉ、音声付き玩具…！？」

「びっビビらせんなさ…！」

「吃驚したー…」


　真っ青になってお互いの腕を掴み合う私とラビの前で、しげしげとチャオジーが人形を見下ろす。


「こんなに古いのに、まだ中の機能が壊れてないなんて。凄いっスね」

「凄かねぇよそんなもん…！」

「チ、チャオジー！　触っちゃ駄目っ」

「大丈夫っスよ、ただの人形っスから」


　ひょいと軽く人形をチャオジーの手が拾い上げる。


『あたしエリー』

『なかよくしてね』


　再びその人形から響いた"声"は、別の台詞を吐いた。