My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「折角だ、雪。楽しい話でもしようかの」
「楽しい?」
「うむ。気分転換にでもなるやもしれん。それにワタシは御主の明るい顔も見たいのだ」
「ワイズリーがそう言うなら…」
提案すれば、すんなりと雪は呑み込んだ。
主とティキの楽しそうな会話を、毎度傍観していたからのう。
…別に羨ましかった訳ではないぞ。
「なんでも良い。雪の最近楽しかった出来事を教えておくれ」
「そう言われても、最近は大変なことばかりだったし…」
「主の心に響いたものは? 欲したもの、欲した場所、欲した時間。なんでもよい」
「場所…それなら…」
「うむ?」
心当たりがあったのだろう。
不意に声色を変えると、ぱっと雪の顔が上がる。
「あのね、ワイズリー。最近、凄いことに出会って」
「ほう。凄いこととは?」
聞く姿勢を向ければ、ようやく雪の表情に一筋の明るさが差し込んだ。
「ハリー・ポッターって知ってるっ?」
✣ ✣ ✣ ✣
とある午後。
穏やかな木漏れ日が差し込む、白いテラスの一人用ソファ。
ティーセットが置かれた机には、大きな蛙の姿が一匹。
ソファの上で胡座を組み深く座り込んだ青年を、じっと見つめていた。
ゲコリと蛙が喉を鳴らすと、習うように、すぅと青年の喉が深く息を吸い込む。
ゆっくりと瞼を持ち上げ静かに起床した青年は、気持ち良さそうに伸びをした。
「ふぅむ、良い夢であった」
「どんな?」
「むッ!?」
まさか返答があるとは思っていなかったのだろう。
独り言に突っ込まれ振り返れば、並んで置かれた長ソファ。
「ワイズリー、凄く気持ち良さそうに寝てたねぇ」
「始終ニヤけてたよ、君」
「つーかどんな夢だよ」
其処には当然のように午後の茶会を楽しむ、家族の姿があった。
「のの…御主ら、ずっと其処で見ておったのか?」
「さっき来たばかりさ。ロードが甘い物が食べたいって言うからね」
「折角いい天気だし、外でおやつにしようかな〜って」
「だからどんな夢だって」
「のぅ…(絶対わざとじゃな、こ奴ら…)」