My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
ただ一人、彼の為に生きようとしたからこそ、ただ一人、彼の所為で突き落とされる。
これではまるで、あのノアの言う通りだ。
他人の為だけに生きるのは、自分の幸せを見つけられない者の憐れな生き方だと。
コンコン
暗く沈んでいた気持ちは、唐突に舞い込んできたノック音で途切れた。
はっと顔を上げドアを見るが、いつまでもそこが開く気配はない。
コココン
連続でノックを鳴らす。
それは鴉の札が貼られたドアからではなく、快晴広がる窓の外から聞こえた。
見れば、燃えるような赤毛が二つ。
窓の中を覗き込んで手を振っていた。
「……此処、五階だけど…」
唖然と漏らす雪の言う通り、五階に位置するこの部屋は窓の外から笑顔で手を振れるような場所ではない。
鍵を開けてくれ、と身振り手振りで催促する双子はどうやら幻覚ではないらしく、雪はベッドから下りると何事かと近付いた。
鍵を開けて窓を開けば、外の心地良い風が流れ込んでくる。
明るい太陽の下で派手に映る赤毛はやはり魔法使いの二人で、彼らだからこそ成せることなのだとすぐに雪は理解した。
「よかった、ユキが起きていてくれて」
「大丈夫かい?」
ふわふわと緩やかに上下する二人が跨っていたのは、一見して普通の箒。
リヴァプールで双子のその姿を見ていなかった雪は、ぱちりと珍しそうに目を瞬いた。
「それ…魔法の箒?」
「如何にも」
「本当はそっちのドアからお邪魔したかったんだけどね。糸目の彼がちょっとやそっとじゃ通してくれなさそうだったから」
糸目の彼とは、恐らくトクサのことなのだろう。
見張りをする分には回復したトクサに内心安堵しながらも、雪は心配そうに窓の外を伺った。
「でも大丈夫なの?こんな所で魔法使って…あの先生に怒られるんじゃ…」
「マクゴナガル先生は今頃、君の所のお偉いさんと会議中さ」
「折角招いてもらったんだし。こんな面白い所、探検しない手はないだろ?」
悪戯っぽく笑うフレッドとジョージに、呆れながらもふと雪にも苦笑混じりの笑みが浮かぶ。