My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
見知った肌触りのいい白いシーツ。
見知った染み一つない白い服。
見知った誰もいない個室病室で一人、雪はベッドの上から窓の外を眺めていた。
空は青々しく澄み切った快晴だと言うのに、反して心は沈んでいる。
それでも教団へ戻るや否や、個別病棟に移され向けられた数々の身体検査を雪は淡々と受け入れた。
ようやく一息ついた頃には、すっかり太陽は真上に昇り切っていた。
「食事を下げに…あら、食べてないんですか?」
医療班の女性が、用意していた食事のトレイを下げに訪れる。
しかしベッドのサイドテーブルには、一切手のつけられていない食事がそのまま並んでいた。
「食欲がなくて」
「なら代わりに点滴を打ちましょうか?」
「いいえ、大丈夫です」
やんわりと断りを入れる雪に看護師は特に追求することもなく、夜は食べられるようになるといいですね、と言ってトレイを下げる。
彼女が去った扉の中央には、ぽつんと見知った鴉の札が一枚張り付けてある。
その小さきながらも監視されている空気に、雪は力無く溜息をついた。
コムイは雪を一切責めはしなかったが、始終難しい顔をしていた。
以前、雪の体がノアの片鱗を見せた時に向けてきた、親身に心配していた顔とは違う。
雪の無事に安堵する以上に、雪が招いた事件に責任を感じていたのだろうか。
(…私はやっぱり、お荷物なのかな…)
自分がノアだと知ったとて、すぐに驚異的な力を手に入れられる訳ではなかった。
有り余る程に膨大な力故に振り回されて、結果周りにも被害を撒き散らしている。
"君は周りに混沌を撒き散らすのみで、誰の得にもなっていない"
朧気な記憶の中で聞いたノアの声が、脳裏にこびり付いたまま離れない。
膝の上で握った拳を持ち上げると、自身の額に押し当て俯いた。
ノアであることを雪自身も、黒の教団も、そして神田も受け入れたというのに。
それでも共に生きていこうと誓ったのに。
何故こうも不安と哀しみが渦巻くのか。
原因は少なからずわかっていた。
持て余している巨大なノアの力のこともあるが、コムイにも強い結び付きだと言われた雪と神田の間に、綻びができたからだ。