My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
膣内に熱い射精を感じはしなかった。
しかし辛うじて引っ掛かっているだけのバスローブに、乱れた肌を露わにしたまま力無く雪の体はシーツに沈んだ。
ようやく身を退く神田に、雪の鎖骨と肩の間にはくっきりと滲んだ赤い跡が残る。
痛みさえも快楽に変わる行為に、ずっと燻っていた体は望んだものを得られた。
だというのに、そこに充足感などはない。
涙でぼやけた視界をシーツに押し付けるようにして隠すと、雪は力の入らない体を小さく丸めた。
「…っ…」
まるで子供のように、四肢を抱いて縮こまる。
その口からは、声なき震えが零れた。
熱い吐息を落ち着かせながら見下ろす神田の表情に、険しさが宿る。
口を開くも何も言葉を成さぬまま、行き場のない感情を抑えるかのように拳を握った。
「クァルルルッ!」
聞いたことのない声は、部屋の隅から聞こえた。
目を向けた神田の視界に、赤い羽毛を膨らませて威嚇するように尾先を持ち上げているフォークスが映る。
喉を震わせ警戒しているのは、他ならぬ神田に対してだ。
しかし賢い頭は神田が敵ではないことを理解しているのか、攻撃はしてこない。
「……て…」
くぐもった小さな小さな声が、雪の震える唇から零れ落ちた。
「…出てって…」
伏せた顔は神田には見えない。
しかしその言葉がフォークスに向けられたものではないことは、明白だった。
握った拳を解きはしたものの、その手は雪の体に触れはしない。
代わりに乱れた掛け布団を掴むと、丸めた小さな体を隠すように包んだ。
沈黙はほんの少しの間だけ。
やがて無言でベッドを下り後にする神田に、ベッドの上の小さな塊は身動き一つしない。
ドアノブに手を掛け今一度雪を見ると、神田は静かに部屋を後にした。
遠ざかる気配に、ようやく威嚇し続けていたフォークスも気を沈める。
静寂の中、雪はシーツに顔を押し付けたまま声を殺し続けた。
浅ましい熱のこもった空気。
発情した汗の臭い。
神田の残した微かな温もり。
そこに溺れた自身の身体。
その全てに吐き気がした。