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My important place【D.Gray-man】

第48章 フェイク・ラバー



「どうした」

「っ…なんでもない」



だから触らないで、と。
小さな声で拒絶して、空いた手で胸を押し返す。
そんな雪の抵抗に構わず、神田は火照った肌へと手を伸ばした。



「ぃゃッ」



額に触れようとした手を弾かれる。
体を猫のように縮ませて顔を庇うと、雪は上擦った声で乞うた。



「お願い…本当に、放って、おいて」

「何言ってんだお前…やっぱり具合悪いんじゃねぇか」

「そんなんじゃ、ない…」

「なんで隠そうとすんだよ。リナ達には言えなくても俺には言え」



雪が弱音を中々吐かない性格なのは知っている。
それでも神田の前では、嫌いだと言っていた幼い子供のような姿を見せるようになった。
なのに尚も頑なに首を横に振る姿に、神田の顔つきが険しくなる。



「まさか…ノア化の影響でも残ってるのか」

「違…」

「下手な嘘つくなッ」



肩を掴めば、びくりと強張る雪の体。
全身で拒否されている気がして苛立ちが増した。



「痩せ我慢される方が迷惑だ。お前がノアだなんてこと百も承知してる、ちゃんと話せッ」



つられて荒くなる神田の声に、雪は体を縮めたまま。
しかし噛み締めていた唇を、微かに開いた。



「…だから、違うの…ノアは、関係ない」

「お前な…まだ言う」

「リッチモンド」

「は?」

「リッチモンド伯爵は、自白しなかったの?」

「なんのことだ」

「聞いたんでしょ、伯爵が行ってた人身売買。そこで使われていた、薬も」



唐突な問いに一瞬面食らう。
しかし雪の言う通り、リッチモンドの自供でそれは神田も耳にしていた情報だった。



「人体に強い影響を及ぼす幻覚剤のことか」



魔法界の植物も混入させた、一種の強い麻薬のようなもの。
それを攫った人間達の体に投与し、心身の自由を奪い競りに賭けていたという。
太った婦人を攫っただけでなく、魔法界でタブーとも言われる行為を犯したリッチモンド。
その責任はダンブルドアも重く感じているようだった。
だからこそ神田達の手助けをしたのだろう。

それがどうしたと続ければ、手首を掴まれた拳を握り、雪は再度唇を噛み締めた。



「……まだ…残ってるの」

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