My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
この場にアレンがいたら、神田の偽物ではないかと疑う程に稀な姿だろう。
すぐに暴力を成す手は雪の手首を掴んだまま、ゆっくりとその力を緩めた。
「…俺はお前を問い詰めに来た訳じゃねぇよ。話をしたかっただけだ」
気を失う直前に見た不安定な雪の表情が、言葉が、心が気になって。
傍にいたいと思ったから、リナリーの許可を得てでも会いに来た。
何も知らない癖に、とティキに見下げられた。
そこに何も返せない自分がいた。
確かに自主的に周りとコミュニケーションを取り、会話を作りにいく性格ではないことは自覚している。
二人きりでいる時も、雪の作る会話に受け応えていることが多い。
それでも初めて、その心が知りたいと思った相手だ。
その心を理解したいと思えた女性だ。
その為にはアルマと接していた時のような受け身の自分では、いけないこともわかっていた。
彼女の心を知りたいのならば、理解したいのならば、一歩ずつでも歩み寄らなければ。
凡そ他人の為には使ってこなかった思いを、不器用ながらに神田は口にした。
「雪と話がしたかった。それだけだ、他意はない」
「…むり、だよ」
「なんでだよ」
それでも掴まれた手を退き逃げようとする雪に、忍耐力の低い神田の眉間に皺が寄る。
「今は、むりなの…ユウが、近くにいると…」
「だからなんでだ。リナや赤毛の双子はいいってのにか」
「っそんなこと、言って、ない」
「態度が言ってんだろ。逃げんな」
後退る雪を逃がすまいと、椅子から腰を上げベッドに片膝を付く。
握った手首を強く引けば、隠れていた雪の顔が垣間見える。
は、と僅かに開いた唇から零れる吐息。
じんわりと微かに滲んだ瞳。
泣きそうな顔をしているのに、熱を持つかのように火照った肌。
「…おい?」
普段の雪とは何か違う。
その異変に神田は目を止めた。