My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
唐突な雪の否定に、一瞬神田も気圧された。
襲ったのは二度目の後悔。
例え本当にノアと面識があろうとも、責めるつもりはなかった。
雪が安易に本音を出せない立場なのは理解している。
ただ自分の知らない雪の顔を、当然のように知っているティキに不信感が募ったのだ。
「内通なんて言ってねぇだろっ」
それでも売り言葉に買い言葉のような返ししかできない。
俯いていた雪の顔が上がる。
その表情を前に、神田の口が止まる。
まるで泣いているような顔だった。
しかし涙は見せていない、今まで何度も見てきた、瀬戸際で踏み止まっている顔だ。
「ゆ───」
「もういい」
消え入りそうに届いた声は、拒絶にも似ていた。
「じゃあ、もういい、でしょ…私は嘘なんてついてない。ジャスデビ以外の誰とも面識はないし、ジャスデビとも内輪の話はしてない」
歪んだ顔を俯けて、視界から神田を外す。
「これで、答えは満足?」
教団の独房の中で捕えられた雪と向き合った時も、そうだった。
一人で立とうとする時、彼女は周りから目を逸らす。
自分の足元だけを見て、ふらつかないようにと耐えるのだ。
「おい雪」
「っ」
気付けば手が伸びていた。
手首を掴めば、びくりと雪の体が跳ねる。
大袈裟な程の過敏な反応に、神田は不満を露わにした。
「そんな顔見せられて満足するかよ」
「…放っといてよ。どうせ私は、ユウみたいに顔立ちよくなんて、ないし」
「阿呆言ってんな。いいからこっちを見ろ」
「…放して」
「見ろって言ってんだろ」
「嫌、だ」
恐る恐るとでも、独房の中での雪は目を合わせて話をした。
その視線が今は重ならない。
「今は、ユウの近くにいたくない…触らないで。放って、おいて」
今度ははっきりと言葉で拒絶された。
逃げ腰なことが多くても、耐え忍ぶことも多かった雪は、向き合うこともできる人物だ。
でなければ長年拳を向けてきた神田と、恋仲になどなれていない。
出そうになる二度目の舌打ちを呑み込んで、どうにか神田は苛立ちを抑えた。
怒りをぶつけるのは簡単だ。
しかしそれを今の雪には向けたくない。