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My important place【D.Gray-man】

第48章 フェイク・ラバー



「…ティキ・ミック」

「?」

「俺が対峙したノアだ。知ってるか」



窓へ向いていた神田の顔が、ようやく雪を見据えた。
真っ黒な瞳の奥には、感情の色が見えない。



「前に、ラビに聞いたことがある。アレンに博打で負かされたことがあるって…話では知ってるよ」

「会ったことは」

「面識はないけど…そのノアが、私が大聖堂で戦った相手?」

「違う。それとは別だ」

「別?」



打ち込まれた薬の所為で、記憶の中の景色は朧気だった。
雪の心に刃物をゆっくりと刺し込むかのように、ねちっこく責めてきた爬虫類顔の男がティキ・ミックでないとしたら。
他に雪に思い当たる男は、一人しかいない。



(あの男が、ティキ・ミックだった…?)



ドクリと心臓が脈を打つ。
声も手も常に優しいものだったが、気付けば底なしの沼に引き摺り込むように導かれていた。
朧気な意識の中でも残っている、男の体に染み込んだ煙草の匂い。

その匂いに包まれるようにして、快楽に溺れた。



「…っ」



もし本当に、抱かれた腕がその男のものだとしたら。
未遂であろうとも、体を交えたのはやはり敵だったのか。

握った拳を胸に押し付ける。
その雪の変化を、神田が感じ取れないはずがなかった。



「知っているんだな」



微かだが変わる神田の声色。
まるで問い詰められているような気がした。



「知ってるって…面識はないよ。私が今回出会ったノアは、皆初対面だった。以前に会ったことがあるのは、ジャスデビだけ、だよ」

「あいつはお前を知っているような口振りだった」

「そ…っんなこと、言われても、私は知らない」

「…面識があることは責めてない。本当のことを言えって言ってんだ」

「…何、言って…?」



胸の前で強く拳を握る。
手の中の嫌な汗が、心と共に冷えていく。



「私が、嘘をついてるって、言いたいの…?」



ドクリドクリと心臓が嫌な音を立てる。
見据えてくる神田の黒い眼に、光は見えない。

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