My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「では甘いお菓子はどうじゃ?」
にこにこと問い掛けてくる老人に再度首を横に振る。
上体を起こし、じっと雪が見下ろしているのは自身の体。
見た目にはどこにも傷跡などなく、首の火傷の痛みも一切ないところ、綺麗になっているのだろう。
着ている服も卑猥な下着類ではなく、ラフな白いシャツとズボン。
意識を飛ばす前の記憶の出来事は、夢ではなかったのかと思う程に痕跡がない。
介抱してくれたのは、目の前の老人なのだろう。
「…ありがとうございました…色々、お世話になったみたいで…あの…?」
「アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア」
「ぁ、ある…?」
「アルバス・ダンブルドアじゃ」
茶目っ気の感じる笑みを一つ。
煌めくブルーの瞳をぱちんとウィンクさせる老人───ダンブルドアに、雪はああと頷いた。
「ダンブルドア……先生?」
「儂のことを知っておるのかね?然様、ホグワーツの校長をしてお」
「ダンブルドア先生!?」
「む?お、そうじゃが…」
ベッド脇に置かれた椅子に座る長身の老人に、雪は目を見張った。
ハリー・ポッター同様、それは有名な児童文学に出てくる姓と同じだったからだ。
「あ、あの偉大な魔法使いの…!?」
「ふむ。フレッドとジョージに聞いておったが、君は随分と我々の世界に詳しいようだのう」
「やっぱり…!あ、握手して下さいっ」
震える両手を差し出す雪に、半月型眼鏡の奥の目がぱちりと瞬く。
やがて面白そうにダンブルドアは肩を揺らして笑った。
「ほっほっほ!君は面白いマグルじゃのう」
それでも快く握手を受けるダンブルドアに、雪は感嘆の溜息を洩らした。
(本当だったんだ…フレッドとジョージの話は)
あんなに赤毛の双子の説明ではすぐに呑み込めなかった真実が、目の前の偉大な魔法使い一人の登場でがらりと変わる。
百聞は一見にしかず、である。