My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
慌ただしい騒ぎの中で目元を庇いながら、しかしティキははっとそれに気付いた。
大量の鳥の群は人の姿さえ塗り潰していく。
それはジョージに抱えられた雪をも。
「させるか…!」
咄嗟に伸ばした手からティーズの群を放出する。
しかし先の戦闘で、ほとんどのティーズは神田とアレンに滅された。
鳥を全て食らう程の勢いは、今のティーズにはない。
幾分数は減らせても、伸ばした手は届かない。
「雪ッ!!」
叫んだ声は、鳥の鳴き声と羽撃きに掻き消される。
瞑った瞳を開くことなく、反応を示さない雪の姿がティキの視界から消える。
否、目の前を遮ったのは廃れたドレス。
雪とティキの間で手にした六幻を構えたのは、神田だった。
物理的な障害を目の当たりにして、ティキの表情が変わる。
互いに交わす言葉などない。
嵐のような騒音の中、更に膨張した鳥の群は瞬く間にティキと神田の姿をも覆い尽くした。
バサバサと劈く羽撃き。
ギャアギャアと叫ぶ鳴き声。
それらが終わりを告げたのは、唐突だった。
隅に転がっていたリッチモンドにまで覆い被さる鳥達の動きが、一斉に同じ進路へと変え畝り天を仰いだ───刹那。
バシュッ!と弾くような音を立てて、まるで何かに吸い込まれるようにして鳥達は忽然と姿を消したのだ。
「………ぁ、アレ?」
「…消えやがった?」
「…どうやら煙に巻かれたようだね…」
顔を庇う体制で首を傾げるジャスデビと、事を察したシェリル。
「…ッ」
そして苦虫を噛み潰したように、拳を握るティキを除いて。
偉大な魔法使いは、その場の者を一人残らず連れ去った。