My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「…セカンドくんってさ、雪のなんなわけ?」
不意に、ぽつりとティキが問い掛けたのは神田に対して。
うねる癖の強い前髪に隠れて、その表情は見えない。
「イノセンスなんかで縛り付けて、散々傷付けて、それで雪を守ってるつもりかよ」
「………」
「呆れたな。所詮お前も教団の駒か」
「…雪が望んだ道だ。否定はしない」
「はは、何言ってんの?お前達が強制したんだろ。じゃなきゃ誰が望んでイノセンスなんか───」
乾いたティキの笑い声が不意に止まる。
覚えがあった。
ノアメモリーを体に宿しながら、それでも尚雪が求めたものがなんなのか。
愛したものがなんなのか。
"私は、あのイノセンスの…重荷にしかなっていない"
それが哀しくて悔しいのだと、辿々しくも伝えてきた。
泥水の中で独り蹲り、戸惑いながらも父のイノセンスへの愛を伝えてきた。
あれは彼女の本音だった。
「……そういうことか…」
覚えがあった。
イノセンスに焼かれる恐怖を知っていながら、それでも縛られることを許した雪の思いに。
「はは…そういうことかよ…」
「ティッキー?」
「んっとに…今日は感情が追いつかねぇわ…」
片手で顔を覆い、乾いた笑い声を上げる。
揺れていたティキの肩が、シェリルの声でぴたりと止まった。
「雪の、親への思いを利用しやがったのか」
指の隙間から覗く片目が、鈍い金色(こんじき)の色を放つ。
ざわりとティキの癖の強い髪がうねりを増し、顔を覆う指先がドス黒く変色していく。
肌に刺すような、痛みさえ感じ得るかのような冷たい殺気。
「っあの姿はティキが方舟で暴走した時と同じだ…!神田、雪さんを連れて下がって!」
即座に戦闘態勢に入ったアレンが、神田の前に躍り出る。
いつまた殺生が始まっても可笑しくない空気の中で、ティキの視線は神田だけを貫いていた。
「自分の勝手な都合で雪を縛ってる癖に、自分にとって都合の悪いことには目を瞑るのか」
ぞわりとティキの黒く染まった肌から波を打つ、奇妙な黒い触手のようなもの。
その禍々しい姿は、ティキの怒りを象徴しているかのようだった。
「やっぱ一度死ねよ」