My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「彼女のことは気付いていたみたいだね、ティッキー。僕らの求めていた家族だってこと」
「だから取り返そうとしてるんだろ。なんで止める」
「無理だからだよ」
「…何言ってんの?」
確かに数で言えばノア側が不利だが、実力が優れば数など関係ない。
そもそも何をそうもあっさり諦めきれるのか。
ワイズリーの繋げていた脳内世界とは違う。
ようやく現実の雪に触れることができたというのに。
曖昧な境界線ではない。
ようやく確かな現実の彼女を見つけ出せたのだ。
「やる気ないなら引っ込んでろよ。俺一人でやる」
「んふ。ゾクゾクするねぇその顔」
家族であろうと底冷えする目を向けるティキに、しかしシェリルには逆効果なのか頬を染める始末。
心底軽蔑するような顔に変わる義弟に、それでも兄はめげなかった。
「余興は後にして、とにかく!これ以上手は出させないよ。例えティッキーにでもね」
「なんでだよ」
「ラースラの為にならないからさ」
反感していたティキの声が止まる。
「彼女、首輪を付けられているんだ。それもイノセンスの結晶体を、生身にね。あんなもので縛られたら僕らだってひとたまりもないのに、ノアとして目覚めてもいない彼女はどうなる?」
人差し指を立てて己の首に横から当てると、シェリルは事の有様を示した。
「例えこの場で奪還できても、あの首輪は僕らじゃ無事に外せない。壊すことは可能だろうけど、そんなことをすれば身に付けているラースラにイノセンスの暴走が向く。取り外す前に、ラースラが先に朽ち果てるだろう」
「………」
「それでもいいなら、思う存分暴れるがいいさ」
人としての経験値を除けば、ティキよりシェリルの方が知識は身に付けてある。
人差し指を銃口のようにして首を撃つ仕草を示すシェリルに、ティキは黙り込んだ。
静かに目を向けた先には、神田に支えられた雪が見える。
確かにその首にはチョーカーのようなものが飾られていた。
そしてそこから夥しく広がるように、肌を焼いている痕も。
シェリルがティキの肩を持たない訳がない。
多少の無理なら聞くだろう。
それでも尚止めるのは、自分達の方が分が悪いと理解しているからだ。
あのイノセンスの首枷を、ティキ達では無事に取り外すことはできない。