My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「おい!これじゃ窒息するぞ!」
「だから鼻孔は閉じていないでしょう───"静"」
雪に張り付いていた札の文字が、一瞬にして塗り替わる。
金色の札が真っ青に変わると、がくんと力を無くしたように雪の体が落ちた。
「ほう。その手負いの状態で、やりおるのう」
「何方様かが、変な力で足を治してくれた所為ですかね」
「ほっほっほっ」
シェリルに切断された左腕は依然失ったままだが、折られたはずのトクサの右足は戻っていた。
多少の痛みはあったものの、ダンブルドアが杖を向けると忽ちに砕かれた骨は再生したのだ。
「カンダ!ユキは!?」
「息はしてるか!?」
「…ああ。命は取り留めてある」
びり、と神田の手で目元の札が破られる。
瞑った瞳はぴくりとも動かないが、胸は微かに上下に動いている。
慌てて駆け寄るフレッドとジョージは、ほっと安堵の息を吐き出した。
「良かった…」
「全く、ヒヤヒヤしたよ。あれはなんだったんだい?」
「そんな話は後だ。それより先に此処から」
退避せねば、と。
雪を抱いたまま神田が腰を上げると、ジャリ、と割れた硝子を靴底が踏む。
「うっわ…なんだこれ」
それは神田の履いたヒール付きの靴ではなく、割れたステンドグラスの縁に片足を掛けた者から。
「想像以上の有様になってんだけど」
「待て…ッ!」
高い窓枠からすたんと軽やかに着地したのは、戦闘を終えたばかりのような姿をしたティキだった。
立て続けに窓枠から飛び込んできたアレンと一戦交えた所為なのだろう。
「まぁ落ち着けよ少年。俺より気になるだろ、これ」
「! これは…」
イギリス国家屈指の美の象徴と謳われた、リヴァプール大聖堂。
そこには見る影もなく、バイプオルガンは拉げ幾何学模様の床は抉られ、幾つも穴の空いた壁に破壊されたオブジェ、ステンドグラスは全て粉々に砕け散り散乱している。
まるで巨大な隕石が落ちたかのようなクレーターを作り上げている中心にいるのは、鴉の札に縛られた雪とそれを支える神田だった。
「あーあ。少年が邪魔するから雪を奪われちまってるじゃねぇか……シェリルは何やってんの」
飄々とした物言いながらも、底冷えするティキの声。