My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
見覚えがあった。
それは、ホラー映画鑑賞会という名の娯楽を教団で行った時のこと。
開催場となった雪の部屋で、夜中に起きた彼女が見せたノアの片鱗。
片眼だけに、それは宿っていた。
暗闇の中で光る金色の一つ眼は、薄らと神田の背に寒いものを走らせた。
それと同じに、右眼だけを金色に染めた雪の朧気な瞳が、神田を映す。
見えているようで、焦点は定まっていない。
あの皆が眠りこけた部屋の中で、砂嵐が舞うテレビの微弱な光に照らされていた雪の顔と重なる。
しかしあの時の雪は、変わらず月城雪としての意志を持ち神田の声に耳を傾け、ノアの異変を自ら沈めることができた。
(まだ間に合う)
雪の体は完全にノアのものにはなっていない。
彼女の周りを覆うエネルギー体は牙を向いているが、雪自身から殺意は感じられない。
受ける衝撃でジリジリと下がる足を踏ん張り、神田は盾にしていた六幻の向きを変えた。
「お前の能力なら、俺の方がよく知ってる」
この身に受けたからこそ。
迷い無く右手の持つ六幻の刃を、一直線に神田は突き立てた。
───ガンッ!
雪の手の甲へと。
「あ"…!」
皮膚を突き破り地面へと突き立てられたそれに、雪の口から濁った悲鳴が飛ぶ。
「えぇええ!?!!何してるんだ!」
「それもう殴るじゃなく斬ってるから!」
顔を真っ青にするフレッドとジョージに、神田だけが顔色一つ変えなかった。
「痛みは力だろ、お前には。殺られたくなけりゃ抗え…!」
「ぅ、う…あ…ッ」
みるみる真っ赤な血に染まっていく左手。
杭のように打ち込まれた六幻で傷口を抉られ、雪は痛みに体を震わせた。
「あ、ぁあ"…!」
咆哮に応えるように、雪の手首に絡み付いていた鎖が頭を擡げる。
蛇のように頭を揺らし、狙いを定めるようにして。
スキンの時とは違い、ずるずると這うようにして不安定に神田の体へと絡み付いていく。
しかしスキンと同じに、相手の逃げ道を摘み取る業であることを神田は知っていた。