My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「いい加減、目ぇ醒ませ!」
六幻を振り被る。
しかし刃は雪の体ではなく、その足元の床を削り取った。
バランスを崩した雪が地に伏せる。
と同時に弾けるような光の刃が神田へと向いた。
「く…!」
両手で交差させた六幻で衝撃を受け止めるものの、六幻の刃を伝い神田の手にも焼けるような衝撃を与えてくる。
それでも尚柄を握る手に力を増せば、地面に転がった雪の四肢に薄らと何かが具現化した。
彼女の手首より、太く頑丈そうな光の鎖。
手や足に絡み付き縛るそれに、神田は確信を得た。
「ッやっぱりな…お前のそれは、あいつの力か」
あの日と重なる。
あの日、リナリーが千年伯爵に捕われ、彼女を救う為にノアの方舟へと乗り込んだ日。
其処で交戦した、大柄な男のノア。
彼が放っていた強烈な雷のような一撃一撃は、身を以て憶えている。
神田から受けた攻撃を太く長い鎖へと具現化し、それによって互いの体を繋ぎ逃げ道を塞いできた業も。
それらと同じだった。
"わかってねェなあ…言っただろ…ノアは不死…だ…"
命を散らす寸前に、不気味な嗤いを残して消えた。
その時は単なる負け惜しみの一つとしか取っていなかった。
「……そういうことかよ…」
確かにあの日、方舟の中でスキン・ボリックという男の存在は神田の手によって消えた。
しかし彼の中に刻まれていた"怒"のノアメモリーは、次に雪の体を選び宿ったのだ。
それがスキンの言った"ノアは不死"という意味ならば、筋は通る。
"まだ…終わってたまるかよぉ〜…"
体を半分以上破壊された状態で、それでも最期まで嗤っていた。
スキンの不気味な声が脳裏に木霊する。
「は…笑えねぇ」
自虐的に呟く神田の体に、更に衝撃の負荷が掛かる。
「ッ…起きろ、つってんだろ…本気で殴るぞテメ…!」
「………」
「雪ッ!」
至近距離の罵声に、今度は声が届いたのだろうか。
地面に両手を付き、ゆっくりと伏せた体を持ち上げながら、覚束無い動作で顔を上げる。
その雪の顔を前にして、神田は声を詰めた。