My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「カンダ、無闇に呼ぶのは危険だ」
「ユキはお怒りのようだぞ」
「…声が届かねぇなら、殴り起こすまでだ」
「殴って起こすのかい?」
「真実の愛のキスじゃなくて?」
おどける双子の言葉には耳を貸さず。
雪の下へと向かう神田の体に、パリパリとノアの殺気が伝わる。
間違いなく雪はノアの暴走を受けている。
それと同時に、首元で強烈な光を放っているものの感覚は覚えがあった。
幼い頃に何度もその身に受けた、痛みを伴う衝撃と同じものだ。
「(イノセンスが発破かけてやがるのか…)おい鴉野郎ッ雪の首のあれはお前の仕業だろ、止めさせろ!」
「確かに私が発動させましたが、今は月城に反応して、イノセンスが自らノアの力を抑え付けようとしている結果です。止める為には、月城のノアメモリーを抑える必要がある」
「チッ、厄介なことしやがって」
「月城をノアの手から守る為にしたことです。文句を言うなら、亀のように遅い足を、もう少し速く動かして下さいませんか…」
嫌味な物言いはいつも通りだが、覇気のないトクサの体こそが、危機的状況であったことを物語っていた。
恐らく此処にトクサが間に合わなければ、雪は連れ去られていたのだろう。
しかし雪を守る為の力が、今は雪自身を焼いている。
トクサを視界から追い出すと、神田は再び六幻を二幻刀に変えて両手で構えた。
「…カンダ?」
「危ないぞ、それ以上近付いたら…っ」
「近付かないと止められねぇだろ」
頭を抱えて膝を折る雪の周りを渦巻いていた光が、神田を察したように向きを変える。
それは雪の意思とは別に、無差別で牙を向く刃のようにも見えた。
「カンダ!」
「焼け死ぬぞ!」
声を荒らげる双子の目先。
稲妻は神田の下へと落ちなかった。
否、落ちたはずだが既に其処に神田の姿はない。
「遅ぇ」
チキリと六幻の刃が擦れ音を立てる。
それは雪のすぐ背後で。