My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「猫が人に…?(ルルじゃあるまいし)」
目の前で起きた魔法のような出来事に、目を見張る。
そんなシェリルの問いに答えることもなく、ミネルバと呼ばれた女性は手にした杖をすらりと振った。
「彼女から離れなさい!」
「っ…!」
見えない力が発動しているかのように、シェリルの体が重力に逆らい吹き飛ばされる。
ミネルバのローブの下で、タータン・チェックの洒落た裏地がはためいた。
「あの女性も貴方の仲間なんですか…?」
「うむ、その通り。とても頼りになる古くからの友人じゃ」
にっこりとトクサに微笑むと、老人もまた杖を取り出す。
「雪はミネルバに任せるとして、儂はこの建物を守らねばのう」
その目は敵であるシェリルではなく、四肢を解放された雪へと向いていた。
「ぅ…ぁ…」
両手で頭を抱え、微かに呻く雪の足が心許なくふらつく。
パリパリと体の表面を覆う微弱なエネルギーが、不規則に音を立て散り続けている。
「"あれ"ではいつまた暴走するかもわからん」
「…ノアの力が弱まれば、縛り付けているイノセンスで大人しくさせることはできます。しかし今は、真逆の力が同等に衝突し合っている。近付くことも危険です」
「ふぅむ…どうしたものか…」
「「先生!?」」
顎に手をかけ首を捻る老人に、二つの重なり合う声が届いた。
それは割れたステンドグラスの外から響く。
真っ暗な夜空から飛び込んできたのは、箒に乗った赤毛の青年二人。
そして彼らに腕を引かれていたのは、片手に六幻を手にしたままの神田だった。
「マクゴナガル先生が変身術を解いてるなんて…」
「というかあれ、ユキを守ってないか?」
「!」
「「あっ」」
箒で浮遊するフレッドとジョージの目は猫から人へと姿を取り戻した女性に向いていたが、神田の目は別のものを捉えていた。
ミネルバ・マクゴナガルの後方に雪を見つけた途端、目の色を変える。
双子の手を振り解くと、削れた床へと難なく着地した。