My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「っ此処は危険です!下がりなさいッ」
「そう大声を立てるでない。大層な傷を負っているじゃろうに。ほれ、これもちゃんと拾っておいたからの」
これ、と言ってひょこりと老人が掲げたのは、シェリルによって切断されたトクサの左手だった。
奇怪な形のそれを手にしても、顔色一つ変えずにこにこ笑っている老人には目を見張る。
「貴方…何者なんです…?」
「込み入った話は後にしようかのう。今は彼女が優先じゃ」
そう老人が視線で促す先には、四肢の自由を奪われている雪の姿があった。
「やっと捕まえた。あの瓦礫は君の気を逸らせる為の布石さ」
「っ…」
「ああ、暴れたら手足が千切れるから。止めておいた方がいい」
ふぅと息をつくシェリルの目の前で、雪の締め上げられた手足は限界まで引き伸ばされていた。
皮膚を引き裂き筋肉を捻じ曲げるような力に、鮮血が溢れる。
「君の力は強いけれど、まだまだ付け焼き刃で芸がない。そんな生まれたての雛にやられる程、僕も弱いつもりはないよ」
「…ぅ…」
「大丈夫、少し気絶して貰うだけさ。その方が色々と手間が省ける」
シェリルが手を翳せば、ぎちりと雪の首が何かに食い込む。
イノセンスで焼け爛れた皮膚を引き裂き気道を塞がれると、何も映していなかった雪の瞳が更に暗く濁った。
「───!」
黒い小さな影が雪とシェリルの間に飛び出してきたのは、その直後。
音もなく引き裂かれたシェリルの手の甲から、真っ赤な血がぱっと散る。
「フシャア!」
「…猫?」
雪の手前で毛を逆立てた背中と尾を立たせ、牙を向いているのは一匹の猫だった。
止まらない出血に手を引っ込めながらも、然程ダメージはないのかシェリルは眉を潜めるだけ。
「やはりあれでは力不足か…のう、ミネルバよ」
長い髭を撫で付けながら、老人が離れた距離で話しかける。
「儂が責任を持とう。彼女を守っておくれ」
ざわりと猫の毛並みが騒いだ。
海を泳ぐイルカのように、するりと優雅に宙へと弧を描いた猫の姿が忽ちに大きく変貌する。
縞模様の毛並みは黒いローブへ、金色の瞳は厳しい目元へ。
現れたのは、髪をきつく一つにまとめた中年の女性だった。
「言われなくとも」