My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
パチンとシェリルの指がステップを鳴らす。
それを合図に、瓦礫がゆっくりと雪の周りを回り始めた。
まるで宇宙に浮かぶ惑星のように、雪を中心に浮遊する鉄の塊。
徐々に速度を増すそれは、やがて常人の目では追えない速さとなった。
ひゅんひゅんと空を切る音だけが雪の耳に届き、風を生みふわりとベビードールを浮かす。
「この速度なら簡単に人の体を貫通できる。全て避けられたら褒めてあげよう」
シェリルの声も、周りの景色も、まるで届いていないかのように雪は反応を示さない。
じっとその場で無表情に宙を見つめていた。
「そうか。死んでもしらないよ」
ノアとして覚醒していない今の雪では、致命傷を負えば死に至る。
AKUMAを倒すイノセンスを持ちながらも、AKUMAの弾丸を一発でも受ければ呆気なく死に至る装備型エクソシストと道理は同じ。
溜息をつきながら、やれやれと再度指を鳴らす。
シェリルの指がパチンと音を立てたか拾う暇もなく、高速スピンしていた瓦礫の惑星が雪へと流星群のように襲いかかった。
パチン、
微かに音を立てたのは、雪の首の十字架だった。
「っ!?」
閃光のような眩い光が迸る。
思わず片手で目元を庇うシェリルに、強いフラッシュが瞬いた。
落雷のような轟音が鼓膜を震わせたかと思えば、雪の体に無数の穴を開けるはずだった流星群は弾き焼かれ、逆に四方へと飛び散った。
シェリルの予言通りに、弾丸を勝る威力で大聖堂の壁や造形物を悉く破壊する。
夥しい数の瓦礫の弾に死角はない。
床に這ったままのトクサへも、それは容赦なく降り注いだ。
護羽を飛ばす暇もなく、反射的に歯を食い縛り目を瞑る。
「…?」
しかし覚悟した痛みはやってこない。
薄らと目を開けば、目の前には知らぬ影が一つ。
「ほっほっ、怪我はないかのう?」
場の緊迫した空気とは真逆に、拍子抜けるような声。
振り返った影が優しくトクサへと語りかける。
「…貴方は…」
銀色に煌めく長い髪と長い髭。
半月型の眼鏡の奥の明るいブルーの瞳。
トクサには見覚えがあった。
「此処で死ぬには、君はまだまだ若い」
迷子猫の主人である老人だ。