My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「ラースラは個体そのものが爆薬のようなもの。その身体から生み出されるエネルギーを雷(いかづち)のように迸らせ、周りにあるものを焼き尽くす。勿論自分の体も含めてね」
「………」
「だからそのエネルギーに耐える為の強靭な身体を持っている。しかし君の体は半端なまま、ノアの片鱗しか見せていない。…わかるかい?君の体は未だ人間。そんな状態で、ノアとエクソシストの刃を受けたらどうなるか」
トントンと己の首を指すシェリル。
「君、そのままだと首が捥げ落ちるよ?」
言葉通り、雪の首は酷く焼け爛れ赤黒く染まっていた。
ノアメモリーを纏った体が、抑制するイノセンスによって痛ぶり続けられている為である。
ぷしりと小さな血飛沫が、首輪の隙間から噴き出る。
それは鎖骨を伝い、真っさらなベビードールをじわじわと赤く染め上げていた。
爆発的な力を発揮しているが、このままでは雪が先に限界を迎えるだろう。
しかし張り付けた笑顔で助言するシェリルの視界の上で、ひらりと薄いベビードールが舞うと。
一瞬スローに映ったようにも見えたそれは、逃げることも待機することもなく、ただ淡々と挑む雪の姿だった。
「ぐぅッ!」
咄嗟に身を縮めて腕を交差し盾を作るシェリルへと、繰り出されたのはシンプルな飛び膝蹴り。
しかし細い足に纏った高圧エネルギーが、シェリルとの接触で轟音を轟かす。
まるで雷に打たれた衝撃のように、いとも簡単にシェリルの体は大聖堂の壁へと叩き付けられた。
「ッそんなの気にも止めないって訳か…ゲホ、」
壁にめり込んだ体を起き上がらせれば、ガラガラと瓦礫と化した壁が崩壊する。
吐血した唇を腕で拭い、シェリルは低い声で唸った。
「いいだろう。僕も本気で相手をしようじゃあないか」
シェリルの瞳が爬虫類のように縦に割れる。
ゆらりと両腕を広げると、それに従うかのように散乱していた大小の瓦礫が宙へ浮いた。
シェリルの周りだけでなく、雪の背後で潰れた巨大なパイプオルガンもまた拉げた奇妙な音を立てながら、切断されたパイプを生き物のようにうねらせる。
「守りきれるならやってごらん」
360度、死角は無い。