第48章 フェイク・ラバー

「チッ！子供の玩具かよ…！」



玩具にしては度が過ぎているそれを、ティキが舌打ち混じりに地を蹴り回避する。
しかしあまりにも巨大なドラゴンの牙からは、多少距離を取ったくらいでは逃げようがなかった。

体を貫通させることはできても、花火の塊の中で視界を保っておくことはできない。
咄嗟に盾にした巨大なティーズを掲げ、ドラゴンから守るように自身の体を覆った。

バチン！バチン！と花火の連鎖を起こしながら、ドラゴンがティキの体を呑み込む。



その中で揺れたのは、擦り切れたドレスの切れ端。



───ザン！



傾斜80度、一直線に振り切られた刃がティーズ諸共ティキの体に亀裂を生む。
僅かに飛沫のような赤い血液が、ピッとティキの頬に付着した。

堰を切ったように真っ赤な鮮血が胸から噴き出したのは、その直後。



「っ…く、」



ふらりと傾くティキの体。
魔法のように消え去るドラゴン花火に、暗闇の中ティキの真正面を捉えていたのは、六幻を構えた神田だった。
辛うじて倒れはしなかったが、隙を見せたティキの首にチキリと添えられる鮮血の付いたイノセンスの刃。



「ゲッ！ティキの奴やられてら…！」

「ヒー！どうする！？」

「どうするって、面倒臭ェけど助けるしかねェだろ！行くぞジャスデロ！」

「待ってデビッヒィ！？」

「あん？なんだ変な呼び方して」



悲鳴のような奇声に振り返ったデビットは、ティキに加勢に行こうとしていた足を止めた。
否、止めざる終えなかった。



「まさかノアがこんな所にいるなんて」



ジャスデロのドレスの端を踏み付けて転ばせたのは、夜の闇に栄える真っ白なマントを羽織った者。



「テメ…クロスの弟子！」

「そういう呼ばれ方は好きじゃありません」



ジャスデビとは三度目の遭遇となる、アレン・ウォーカーだった。



「知るか！テメェんとこのクロスの所為でオレらは迷惑被ってんだよ！」

「ヒ…ヒ！そうだ！相手しろ！」

「…どうやら面倒な状況になってるみたいですね」



アレンの突然の出現に驚きはしたものの、すぐに目の色を変えて食い掛かるデビットとジャスデロ。
テワクに呼ばれたのだろうか、相反し静かに応えるアレンは、素早く周りを見据え状況を把握した。