My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
…かえる……場所…
朧気な中で拾った声を頼りに、細い思考の糸を手繰り寄せる。
そう、だ
帰る場所は、いるべき場所は、此処ではない。
目の前の男は、求めるものとは違う。
渦を巻くようだった雪の濁った瞳の色が、左右に分かれる。
だらりと垂れた手を向けたのは、殺気の下であるシェリル。
あれは───
この世は弱肉強食。
食われる前に食らうべき。
敵だ
ぱちりと微かな閃光が雪の掌に走る。
それは瞬く間に、大蛇のような稲光の姿でシェリルへと牙を向いた。
「───焼き尽くせ!赤ボム!」
「灼熱の赤い惑星ェ!」
ドン!と二つの銃口から飛び出したのは、真っ赤に燃える巨大な炎の塊。
それは辺り一面を転がるように走り抜くと、あっという間に炎の床を作り上げた。
「燃えろ燃えろォ!」
「ヒッヒー!これでAKUMAの血には頼れないよォ!」
高らかに笑うジャスデビが狙ったのは対峙するクロウリーではなく、神田が始末したAKUMAの残骸だった。
一匹残らずAKUMAから炎が上がる様に、険しい顔を更に深く変えてクロウリーは舌打ちをした。
「オレらだってお前の戦法はもうわかってんだよ!」
「AKUMAの血を飲んでカラダを強化するなんて、とんだ化け物だよね。ヒッ」
クロウリーにとってAKUMAの血はエナジー源。
周りのAKUMAを全て排除すれば、後はクロウリー自身が携帯するAKUMAの血にしか頼れない。
それさえ奪ってしまえば勝敗は決する。
「つーか、窓のない空間でボヤ騒ぎ起こすなよ。窒息させる気か、馬鹿じゃね」
「ァアン!?テメェに言われたかねーわバカティキ!」
「コッチはお取り込み中ですー!ソッチだって勝手に楽しんでる癖に!」
けほけほと咽気味に突っ込んでくるティキに、ジャスデビの顔が怒りの形相で突っ込み返す。
「いやね、こっちはそろそろ終わりかけだから。そっちの旦那も早く始末してくんね?」
「っ…まだ終わってねぇぞ…ゲホ」
ティキと同じく咽る神田の口から滴っているのは、真っ赤な血だった。
煙で咽た訳ではないらしい、顔には苦痛の表情が浮かんでいる。