My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
シェリルの目に映ったのは、眩い光ではなく、青白く底冷えするような光だった。
青白く光を灯したのは、雪の首元で揺れる小さなイノセンスの十字架。
ぱちりと耳の奥底で、鼓膜を何かが震わす。
ガシャァンッ!
刹那、一斉に左右の巨大なステンドガラスが吹き飛んだ。
窓の外に吹き飛ぶ様は、大聖堂の中で膨張した力によって。
シェリルの視界に、青白い光が走る。
イノセンスに宿ったものと同じ、底冷えするような不気味な光。
それが稲妻のようにパリパリと空気中を走りながら、観覧席を吹き飛ばしパイプオルガンを潰し不協和音を奏でた。
稲妻が走る中心には、頼りない足で立つ雪がいる。
黒と金が混じり合う濁った瞳。
風圧で靡く髪の下で覗く、額にずらりと並んだ聖痕。
体を縛っていたロープは威圧で千切れ飛び、ばたばたと左右に吹かれるベビードールだけが、辛うじて体に引っ掛かっている。
肌の色は本来の彼女のまま。
しかし感じるのは、確かなノアの気配。
「全く、とんだ光景だね…っ」
それと同時にイノセンスの気配も感じるのだ。
雪を中心に走る稲妻は、確かに怒のノアのものである。
しかし首輪の十字架を中心にじわじわと後追いしてくるものは、イノセンスの力。
それを証拠に、雪の首周りはイノセンスの力で焼け爛れていた。
痛がる素振りは見せていないが、確かに今できた傷跡だ。
相反するものを携えた、なんとも形容し難い姿にシェリルは息を呑んだ。
「力は与えた。今の貴女ならノアに抗うことができる。私の声が聞こえているなら、自分の役目を全うしなさい…!」
「…君かい?あんな滑稽なものを作り出したのは」
「答える義理はありませんね…っ月城!貴女の帰るべき場所は何処ですか!目の前の男の下でないのなら、邪魔するものは排除なさい!」
「イノセンスの力でノアを操ろうって言うのかい?これだから自分達を神の使徒などとほざく輩は…!」
殺気立つシェリルに、ぴくりと雪が反応を示す。
何も映していない瞳が、ゆっくりと目の前の男の姿を視認した。