My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「見ない顔もいるようだけど、新しい仲間かな?」
マスカレードマスクの奥の瞳が、金色に宿る。
テワクに微笑む様は紳士な男性にも思えたが、底冷えするような冷たさを感じる。
無意識に下がるテワクとは逆に、強い足取りで男へと踏み出した者がいた。
ガキン!とぶつかり合う金属音。
「出会い頭にいきなり?風情がないね」
「…テメェか」
「何が。てかあれだよな?日本で一度手合わせした包丁使い。…女だったの」
斬り付けた神田の六幻を止めたのは男の片腕だった。
その皮膚の下から生えるように大きな羽を広げているのは、蝶々を思わせる形の巨大なゴーレム。
すげぇ美女、としみじみ呟く声に、神田の六幻を握る手首がしなる。
ゴーレムの羽と剃り合った刃が真上に跳ね上がれば、間一髪首を逸らした男の顔は真っ二つになることはなかった。
しかし切っ先は届いていたらしく、ぴしりと黒いマスカレードマスクに罅が入る。
「冗談だって。そんなに怒るなよ」
パキン、と呆気なく縦に割れたマスクが床へと落ちる。
晒された素顔は、整った目鼻立ちに左目下の泣き黒子。
オールバックにまとめた癖の強い黒髪に、浅黒い額には十字架を思わせる聖痕。
神田にも男は見覚えがあった。
彼の言う通り、日本で一度交戦したノア───ティキ・ミック。
「お前のことはよーく知ってる。一度直に話してみたかったんだよな…セカンドくん?」
「!」
ノア側から聞いた初めての呼び名に神田の動きが止まる。
しかしすぐさま六幻を握り直すと直感した。
「あいつを連れていったのはテメェだな」
セカンドエクソシストの情報を雪から聞き出したのか。
だとすると雪の安否は定かかどうか。
「さっきから何言ってんの?」
「しらばっくれんじゃねぇよッ!」
再び斬りかかる神田に互いの武器が衝突する。
「ティキ!そいつはオレの獲物だぞ!」
「悪いけど俺も用があんの。お前らの目の敵は吸血鬼の旦那だろ」
「ッ」
「そいつはやるから、こっちは邪魔してくれるなよ」
素っ気なくデビットに声だけ向けるティキの体から、咲き誇るかのように幾つも生み出される蝶型の食人ゴーレム。
黒揚羽のようなそれを纏わせ、ティキはニィと口角を上げた。
「俺とダンスしようぜ、セカンドくん」