My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
だが、と顎に拳を当ててクロウリーは首を捻った。
「神田も気性は荒いが、任務遂行となれば割と冷静なタイプであったような…」
「そうなの?」
「彼、ドラゴン並みにピリピリしてるけど」
そう言ってフレッドが指差す先で、殺気立つ神田が投げ掛けた問い。
「此処に男装した女が来たはずだ。そいつは何処だ」
(あ。)
(それか。)
(苛立つ原因は。)
同時に三人の顔が頷きに変わる。
ここまで無謀に突っ込んだのもAKUMAを虫の息で延命させたのも凍るような非道さを見せたのも、全てはそこに繋がる。
「つまりユキはカンダのアキレス腱って訳か」
「違うだろ?それじゃ弱みだ兄弟」
「なんにしても愛されてるってことさ」
「それくらい普通じゃないのかなぁ?恋人なら」
「あの男がそんなタマに見えるか?兄弟」
「…それもそうか」
「だろ」
「(神田にとって雪は強みであり弱みでもあるのだろうな…)…ふむ」
うんうんと頷き合う双子の隣で、顎に拳を当てたままクロウリーもまた一人頷いた。
ここまで神田の実力を引き出せるのも、そしてここまで見境なく視野を狭くさせるのも、雪の存在があってこそ。
それを善悪で問われれば、簡単には吐き出せない答えである。
「男装した女、だと?…自分の姿を見グヘッ!」
「次」
命知らずなAKUMAが神田の姿に突っ込めば、その命は2秒と保たなかった。
頭から背中まで一気に断ち切られ絶命。
他のAKUMAに催促を向ける殺気立った目に、更に周りの空気が凍る。
「し、知らないぞそんなもの…っ此処にいる人間は見ての通り、あれだけだ…ッ」
あれと言って震えるAKUMAが指差す先の舞台には、繋がれた鎖を切断するテワクの姿があった。
「此処に月城の姿はありませんわ」
「なッそ、そんァガッ!」
「次」
的外れとなったAKUMAの片目に、六幻が深く突き刺さる。
淡々と次を催促する神田には慈悲などどこにもない。
恐怖に慄くAKUMA達が縋ったのは、同種であるAKUMAではなかった。