My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
通路で見張りをしていたはずのテワクが、何故飛び出してきたのか。
疑問を問う前に、テワクの手を伸ばすその先。
目にも止まらぬ速さで駆ける黒い塊が、神田の背を弾むように駆け上がった。
咄嗟に黒塗りの六幻を抜刀し振るも、擦れ擦れで避けた塊が今度はフレッドの頭にぶつかる。
「ぶッ!?なん…!」
「あッ!」
大きくバウンドしたそれは、神田達の注目を集めながらひらりと太った婦人の前に着地した。
大きく目を見開くジョージが声を上げる。
「ニャアー」
「…………ね、こ?」
其処にいたのは、縞模様の一匹の猫だった。
思わずぽかんと、腑抜けたクロウリーの声が静かに響く。
「急に飛び込んで来ましたのよ。AKUMAかと思いましたわ…全く」
「…なんで此処に…」
エクソシスト組は見覚えがなかったが、ジョージはどうやら知っているらしい。
恐る恐る問い掛けるジョージに、猫は何も反応を示さない。
動じる様子もなく金色の目を皆から逸らすと、不意に肖像画へと向き直った。
じっと見上げたまま、ふさふさの髭を称えた口元を開く。
「"stultus vicinus"」
そこから流れ出たのは、一瞬であったが確かな単語の響きだった。
「え?」
「あ?」
「は?」
((( 喋 っ た )))
驚く神田達の前で、更に驚く光景は続く。
猫の人語を聞くや否や、あんなに頑なに動かなかった婦人の絵が道を開いたのだ。
「ニャアウ」
唖然とする皆の前で、振り返った猫がひと鳴き。
ついて来いと誘うかのように、そのままするりと四角に切り取られた暗い入口へと入り込んだ。
「な、なんですのあれ…まさかAKUMA…!?」
「いや、彼女は君達の敵じゃないよ」
「寧ろ僕らの味方さ。………多分」
「多分?どうも自信がないであるな」
「いや、まぁ。…ウン」
「色々事情があるんだよ。ウン」
肩を落として力無く応える双子に、どうにも納得のいかない表情を浮かべるテワクとクロウリー。
しかし神田は違った。
「猫なんざどうでもいい。それより道は開けた、行くぞ」
抜いた六幻をそのままに、入口に足を掛ける。
皆の同意を聞く前に、その体は猫同様、暗い闇の中へと溶け込むように消えた。