My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「少しは落ち着いた?」
黒いマスカレードマスクが覗き込んでくる。
薄暗いオレンジ色の光の中では、マスクの奥の瞳はわからない。
なのにゆらりと奥で揺れる"色"を見つけて、雪は肌を粟立てた。
それはティキも同じだった。
微かな明かりに照らされる、銀色のマスカレードマスクの奥底。
濡れた瞳を垣間見て、微かに口角が上がる。
「へえ。まだ欲しいの」
「っ」
「俺、"快楽"に関しては他人より感知度高いから。処女らしいけど、気持ちいいことには素直なんだな。お嬢さん」
背中を撫でていた手が、羽織らせていたジャケットを掴む。
ぱさりとシーツに落ちるそれに、外気に触れる火照った肌。
「いいんじゃねぇの?人間ってのは欲深い生き物だからな。その感情は極自然なもんだよ」
ゆっくりと覆い被さるように体を傾けるティキにつられ、雪の体が背中からシーツの波に沈む。
影を落とす目の前の男から感じるのは、恐怖より強い色欲だった。
「どうせ忘れるんだし。なんなら俺と遊んでく?」
心許なく腰に引っ掛かっていたショーツの片紐を、するりとティキの手が引き解く。
「ぁ…ゃ…」
「それだけ快楽漬けにされといて、まだ否定できるなんてな。中々立派だよ」
ぎこちなく身を捩り腰を退こうとする様は、抗っているようにも見える。
しかしそれがいつ切れても可笑しくない、細い糸のような理性だとティキは知っていた。
「でも体の方は物足りないみたいだけど」
「ぁ、っ」
下腹部を優しく撫でられると、ぞくりと子宮の奥が戦慄くのを雪は感じた。
明らかな快感を求めている体のサインに、声が震える。
「素直に貪ったらいい。気持ちいいことが嫌いな人間なんていないだろ」
今の雪を肯定するかのように、見下ろしてくるマスクの奥の瞳から威圧は感じられない。
優しく甘い声も同じく、雪を責め立てるようなことはしない。
しかしそれが底無しの沼のように、気付けば足を取られて逃げ場を失う。
そわりと首の付け根から這い上がるような奇妙な感覚に、雪は満足に吐き出せない言葉を詰まらせた。
否定できなかったからだ。
「そしたらもっとイイことしてあげる」
それは甘美な誘いだった。