My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「君が気に入ったのなら、わざわざ記憶を消さなくても。そのまま君のものにしてしまえばいいじゃないか」
形は違えど、それこそシェリルの求めていたもの。
ティキに貴族の伴侶ができれば、今以上に人間とのパイプを広げることができる。
密接で利便性のあるパイプが。
「競り落としたのはティッキーなんだから。彼女は事実上、今は君のものだ」
にんまりと嬉しそうに笑いかけるシェリルに対し、しかしティキの表情は冷めていた。
「だから俺はそういうの興味ないって言ってるだろ」
「じゃあなんで助けたんだい?面倒事は嫌がる君が。情でも移った?」
ちらりとティキの切れ目の端が、ベッドに寝かされた雪を一瞬だけ捉えた。
「…あのお嬢さん、多分舞踏会は初めてなんだよ。礼儀も作法も何も知らなかったみたいだし」
「そんな娘、どの社交界にでもいるだろう?」
「でも純粋にあの場は楽しんでた。一人で楽しそうに踊ってたんだよ、ステップも型もデタラメなダンスで。だからと言って一人を好んでる様子でもなかった。話せば柔軟に応えてくれたし。そういう娘は、社交界の何処にもいないだろ」
「…つまり?」
何が言いたいのか、と視線で問い掛けるシェリルに、ティキは目線を外しながら溜息をついた。
「折角楽しめてた初の社交界を、血生臭い思い出にさせてやりたくない」
それこそ面倒臭そうに告げるティキの解答に、目を剥いたのはジャスデビだった。
「はぁあ?なんだそれ!くっさ!」
「キザだキザ!さっむぅうう!」
大袈裟なまでのリアクションで馬鹿にする双子に、だから言いたくなかったんだと言いたげな顔でティキは顔を顰めた。
しかし沈黙を作るシェリルは違った。
大人しくドアの外へと出ると、騒ぎ立てる双子の耳を片方ずつ摘む。
「はぁ。そんなだから君達はいつまで経っても中流止まりなんだよ」
「いっでェ!あんだよ!」
「イタイイタイ!」
「ほら行くよ。ティッキーは彼女を人目に曝したくないみたいだしね」
「はぁ?それがクサイって…イダダダ!」
「そういうことをスマートにできるようになってから文句を言うんだね」
「別にデロ達はそんなことしなくても…イタイ!」
「行動の前に君達は言葉がなってない。全く、どう育てばそうなるんだか…」