My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
───案内されたのは、客間の一室だった。
競売の行われている広間から直結しているところ、恐らくその延長線上で使用される部屋なのだろう。
使用目的は安易に想像がつく。
キングサイズのベッドと必要最低限のものだけ用意された部屋の内装が、それを物語っているようだった。
「ご苦労さん。もう下がっていいよ」
「畏まりました」
抱いていた雪の体をベッドに静かに寝かせる。
深々と頭を下げるAKUMAが部屋を退場するところまで見届けると、ティキは息をつきながら同じベッドに腰を下ろした。
「やっぱり"お嬢さん"だったか」
シルクハットを脱いでベッドの柱へと引っ掛けながら、ベッド脇の間接照明に明かりを灯す。
オレンジ色の光がほんのりと、雪の肌を照らし出した。
「男の格好で舞踏会に参加してたかと思えば、挙句競りに賭けられるなんて。何したの」
「ぅ…」
「ああ、話せなかったか。叫ばないって約束ね」
息がし易いようにと、ティキの手が雪のボールギャグをあっさりと外す。
しかし雪の口からは叫び声は疎か、単語の一つも出てこなかった。
「ぅ、く…っ」
「わざわざ猿轡されて、その上声まで取られてんの?念入りだな」
その様にティキは感心気味に、ぱちりと目を瞬いた。
「っ、つ…!」
「無理はするなよ。そのうち薬の効果が治まれば、話せるようになると思うし。暫く安静にすること」
外された口枷に、力なく開く雪の口の端から透明な雫が零れ落ちる。
嫌がる素振りもなくその唾液をティキが指で拭えば、ぴくりと雪の体は反応を見せた。
「あ、そっか。媚薬紛いなもん投与されてたんだっけ?」
「ふ、っ…」
「多分それも時間が立てば落ち着」
「コラーー!!!!」
落ち着かせるように声をかけるティキを遮り、嵐のような勢いで部屋に一人の男が飛び込んできた。
「何やってんのォオオオオ!!!!!」
長髪を乱し罵声を飛ばすは、血相を変えたシェリル・キャメロット。