My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「ナンダ君ハ。場ヲ弁エテクレナイカ。今ハ、私ト彼女ノ時間ダ」
「…そのことなんだけど」
確信に至れば即決だった。
迷う素振りも見せずにティキが指し示したのは、触手の腕の中で赤らみ帯びた体を力無く横たえている女性。
初めて出会ったあの時から、微かに感じていた違和感。
それはやはり勘違いではなかったのだ。
抱き止めた体は男のものとは違っていた。
「それ、俺が競り落としてもいい?」
「何ヲ言ッテイルンダネ。彼女ハ競リ物デハナイゾ」
「わかってる。だから金額はそちらの言い値で良い。譲ってくれないかな」
「お客様!これは競売とは別物です、邪魔をされては困るっ」
交渉するティキの下に駆け寄ったのは、事を見守っていたリッチモンドだった。
前に出て席に戻るようにと促す彼に、しかしティキは退かなかった。
「だから、わかってるって。無理を承知で頼んでるんだけど」
「申し訳ありませんが、これは既にマクドウォール公爵のもので───」
「"もので"?」
きっぱりと断る強気のリッチモンドの瞳が、黒いマスカレードマスクの下の瞳を捉えた。
暗闇で鋭く光るような、金色の両の瞳。
ゆらりと揺らめくその中に、一瞬感じた殺伐とした気配。
ぞわりと背筋に冷たい悪寒を感じて、リッチモンドは言いかけた言葉を呑み込んだ。
AKUMAに詳しいブローカーであるからこそ、すぐに理解した。
AKUMAでは到底生み出せない、腹の底が冷えるような静かな悪寒を感じさせられる目の前の男の存在を。
彼は、AKUMAよりも安易に触れてはならぬ者。
「の…ノ…ア…さ、ま?」
「それを俺にくれるだけでいい。他の商品は取らないから」
「し、しかし…」
恐る恐る出た疑問符に反応はなかった。
しかし目に見えない重圧に、リッチモンドの額に冷汗が浮かぶ。
くれと言われて容易く渡すことはできない。
彼女は黒の教団側の人間。
必ず始末しなければならない存在だからだ。