My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
ダンス相手を求めることもせず、音楽に惹かれて一人踊っていたと言う少年。
少年か青年か、はたまた成人した男性か。
正確な年齢などわかりはしなかったが、そんな純な思いでダンスホールでステップを踏む者などティキには初めてだった。
だからこそなんとなく心に在った者。
「あれは…なら、やっぱり…」
「何をブツブツ言っているんだい?ティッキー」
「………」
「オイ。今度はだんまりかよ」
「デロ達のこと見えてないネ」
周りから覗き込む金眼達。
しかし考え込むティキの目は、触手に弄ばれる女を捉えたまま。
「遠慮ナク逝クトイイ。女デアル悦ビヲ感ジナサイ。ソノ後ハモット気持チイイコトヲシテアゲヨウ」
「…っ!」
AKUMAによってあられもない姿を曝け出されている体は、快楽を感じているようにも見える。
しかしマスカレードマスクの下から落ちる涙は、それとは別の感情を宿しているようにも見えた。
一度浮かんだ疑問は消えない。
ずるりとAKUMAの触手が白いショーツに潜り込む様を見て、ティキはワインを持つ手を離した。
「はっくしょいッッ!!!」
「「「───!?」」」
途端にその口から出たのは、盛大なくしゃみ。
驚いたのはシェリル達だけではなかった。
その場の空気さえ一瞬止める出来事に、触手の動きもぴたりと止まる。
「テ、ティッキー?風邪かい?」
「っふー、やれやれ………ん?あ、流れ止めた?これは失敬」
「失敬って態度じゃねぇだろ…ってオイっ」
シェリルとデビットの呼び掛けには目もくれず。
席を立ちシルクハットを手にティキが向かった先は、中心の舞台。
生々しく人間を食らおうとする捕食場だった。
「でもなんか寒くってさ、此処。ほら、その娘の格好も見てると余計寒く思えてきて。盛り上がりに欠けると言うか」
「…文句ナラ終ワッタ後二シテクレナイカ。気分ガ悪イ」
「俺も、そんなに良い気分じゃないんだ。奇遇だな」
気分を害したAKUMAに罪悪感などはない。
その行いを止めさせる為に壊した空気だ。
強い光で濡れた肌まで確認できる距離まで近付くと、ティキはじっと女を見上げた。
(…やっぱりな)
間近で観察すれば確信に至る。
やはり見間違いではなかったようだ。
彼女は、男と偽り舞踏会に混じっていた者。