My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「(にしても、)AKUMAが人と交わる、ね…人が牛や豚とヤるようなもんだろ。楽しいか?それ」
「AKUMAは人間の愛と絆から造られるものだ。人間を求める思いは根本にあるのかもしれないよ」
「愛や絆ねぇ…」
ノアであるティキにも、殺人兵器であるAKUMAを計り兼ねるところがある。
頬杖を付きぼんやりとシェリルの言葉を復唱しながら、ちびりとワインを口に含む。
目の前ではリッチモンドに選ばれたAKUMAが、人の皮を脱ぎ禍々しい姿を見せている。
太い触手が何本も女に絡み付き高々持ち上げると、自然とティキの目もそこへ向いた。
(最早呪縛じゃねぇの、それ)
愛と憎しみは紙一重と言ったところだろうか。
しかしAKUMAがなんであれ、ティキの興味を惹くのは機械ではなく人間だ。
薬の所為で抵抗らしい抵抗もできないらしく、それでもくぐもった微かな悲鳴を漏らす女を見上げる。
その命はこの場で一番短いものだろう。
AKUMAに体を嬲り犯された後、食らわれてしまうのだ。
なんとも儚げで弱々しい魂。
「…御愁傷様」
ぽつりと向けた言葉は慈悲か見切りか。
冷めた目で傍観していたティキの目が捉えたのは、女のマスカレードマスクの下で伝う涙だった。
涙の先は隠れて見えない。
しかしその目は恐怖に満ちているのだろう。
「……?」
銀色のマスカレードマスク。
目元を追うようにじっと見ていたそれがスポットライトの光で反射して、ティキは目を細めた。
何処か見覚えがある。
(表の舞踏会で見かけたもんか?)
巡らせた考えはすぐに、まさかと思い直す。
リッチモンドは頭のキレるブローカーだとシェリルから聞いた。
AKUMAの餌にする人間を、そんな身近な所から収集するはずがない。
偶々似たマスクを見かけただけなのだろう。
そう処理しようとするのに、何故だか引っ掛かる。
理屈や理由はない。
頭の隅で何かが引っ掛かっているような、そんな小さな違和感。
「感度ハ良好ナヨウダ。可愛ラシイ」
「ぅ…う…っ」
くぐもった彼女の声はよく聴こえない。
しかし散らばる髪と、光に反射するマスクとが相重なって。
"楽しそうな音楽に惹かれて、つい"
「───あ。」
思い出したのはダンスホールで見た少年だった。