My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
等身大の写真ボードや、彼らが身に付けていたもの、関与していたもの、様々な展示物が並ぶ室内。
其処には観光として見て回っている人々も見受けられ、扉から出てきたところを見られやしなかっただろうかと雪はそわそわと辺りを見渡した。
「…ない…」
しかし振り返った先にはなんの変哲もない壁だけ。
今し方出てきた扉は、跡形もなく姿を消していた。
「だから"目隠しの部屋"なんだ」
「ほら、出るよ。観光客のフリをして」
「わ!腕引っ張らないで…っ」
不思議がる暇もなく、双子に引かれ博物館内を後にする。
建物を出れば観光地ともあってか、人の多さはぐっと増した。
ミャアミャアと鳴くカモメの声に導かれ足が進めば、潮の香りが鼻を撫でる。
港に面したコンクリートの道に、巨大な三つの建造物が悠然と立ち並ぶ。
屋根をアーチ状に描くものや壁の装飾が細かに刻まれているもの、それは世界遺産にもなっている歴史的建築物だった。
三つの真白で巨大な建物を邪魔する外観は他になく、圧倒されながらも海から差す夕日に照らされる様は足を止める程に美しい。
それが此処、ピアヘッドである。
『ガゥッガアッ』
「あっごめんティム」
ロイヤル・リヴァー・ビルを見上げながら歩いていた雪の胸元に、もこもこと主張する膨らみができる。
急いでチャックを開ければ、中のティムキャンピーが飛び出した。
「そういえば僕らはユキのこと、なんにも聞いてないけど」
「邪魔をしないって言ったから僕らもしないけどさ。あの広場のヘンテコリンな怪物は、無視しても大丈夫なんだよな?」
「あー…うん、まぁ…」
「随分と頼りない返事だなぁ」
「大丈夫か?」
ティムキャンピーを見て思い出すように問い掛ける双子に、雪は両手を握ると勢いよく頷いてみせた。
「大丈夫!アレが周りに被害を及ばさないようにするのも私達の仕事だから。でも二人も、見掛けても近付かないようにね。下手したら命を取られるから」
「おお怖い」
「そんな怖い生き物が人間界にいたなんて。ユキの世界は中々にハードそうだ」
「魔法はないけど、別の異質な力みたいなものはあるから。ハードだけど戦える」
「それがいのせんすってやつかい?」
「………」
「「出た、だんまり」」