• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



「それ何?」

「まぁ見てて。"ラカーナム・インフラマーレイ"」



杖の先を暖炉に向けて、ひと振りするのではなく呪文を一つ。
すると忽ちに暖炉の中に、温かみのあるオレンジ色の炎が灯った。
そこに料理で塩を一摘み追加するかのような気軽さで、手にした謎の粉をジョージが振り掛ける。
ぼう、と炎が揺らめいたかと思えば、温かみあるオレンジ色が鮮やかなエメラルドグリーンへと変貌した。



「コツは行き先をはっきり述べること。曖昧な発音だと別の場所に飛ばされることがあるから気を付けて」

「あっ」



言うや否や、躊躇なくエメラルドの炎の中へ飛び込むジョージ。
思わず踏み出す雪の目に映ったのは、平然とした顔で暖炉の中に立つ彼の顔だった。



「ピアヘッド!」



高らかに叫んだかと思えば、炎が立ち昇りジョージの体を一瞬で包み込む。
瞬く間、次に炎が勢いを弱めた時ジョージの姿は暖炉内から掻き消えていた。



「消えた…!」

「"道"を通っただけさ。暖炉から暖炉へ。魔法使いの暖炉はフルーパウダーでネットワーク化してるんだ」

「フルーパウダー?」

「これだよ。さ、ユキも一摘み取って」



傾けられた壺の中を覗き込めば、さらりと煌めく粉が詰まっている。
ジョージを真似て一摘みすれば、肌触りはなんてことのない普通の粉だ。



「それを暖炉の炎に振り掛けるんだ」



先にジョージの一連の行動を見ていたから躊躇はない。
オレンジ色に戻っていた炎に振り掛ければ、再びエメラルドグリーンの炎と化す。



「その状態なら熱くないから、入ってごらん」

「…ティム、入ってて」

「ガゥ」



ジョージは熱がる素振りなど一切見せていなかった。
意を決すると、雪は胸元のマントのチャックを開けてティムキャンピーを中へと促す。
万が一"道"を通る際に逸れてしまわないように。
しっかりとチャックを締めて恐る恐る暖炉の中へと踏み込めば、確かに炎は熱くない。
ほんのりと温かみさえ感じる、優しい炎だ。



「灰を吸い込まないよう気を付けて。発音ははっきりとだよ!」



口を結んだまま部屋内に向き直ると、フレッドに頷き返す。
腕で守るように胸元を抱いて、雪は声を張り上げた。



「ピアヘッド!」



ぼう、と炎が立ち昇る。

/ 2655ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp