My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
『お前、無事なんだろうな』
声はぶっきらぼうだが、心配はしてくれているのだろう。
他人には伝わり難い神田の思いを拾った雪の表情が柔らかく緩む。
「大丈夫だよ、すぐそっちに戻るから。とりあえず一旦切るね、帰りの道中通信電波も途絶えそうだし」
『は?どういうことだ電波が途絶えるって。本当に何処にいんだよ』
「だから話せば長いんだって。すぐ戻るから。じゃあね」
『オイ───』
ぶつりと途切れるゴーレム通信。
戻ったら怒られそうかなぁと肩を下げながら振り返った雪の目に映ったもの。
「おやおや、見たかねフレッド君」
「見たともさ、ジョージ君」
「……何その顔」
其処にはニヤニヤとほくそ笑む双子の姿があった。
「僕らが相手にするまでもないな」
「ユキには意中の相手がいたのか、残念だ」
「すんごい笑顔で残念言われても…」
そんなに顔に出ていたのかと、思わず頬を押さえながらジト見する。
しかし双子のにやけ顔は止まることはなかった。
「ユキの意中の男がどんな奴なのか、同盟組として一目見ておかないとな」
「そうと決まれば早速戻らないと。行こうユキ」
「それは勿論…って、何処に行くの?こっち?」
ほらほらと双子に背を押されるまま雪が足を進めたのは、悪戯グッズ専門店となっている店内の隣部屋。
カウンターレジの奥にはまだ空間があり、薄暗いそこはよく見れば在庫部屋のようだった。
「そのまま奥に進んで」
「そこに道がある」
「道って何。行き止まりの壁しかないけど」
やがて進まされるままに辿り着いたのは、狭い在庫室の壁。
ぺたりと壁に触れて振り返る雪に、双子が緑の目で示したのは壁沿いに造られたもの。
「暖炉がどうかしたの?」
イギリスの自宅なら何処にでもある、極々普通の煉瓦造りの暖炉があった。
「これで戻るのさ。ピアヘッドなら丁度"出口"がある」
「僕らが手本を見せるから、ユキはそれを真似してくれればいい」
暖炉の上に置かれた小さな壷を手に取ると、蓋を開け何かを摘み出す。
ジョージの手に摘まれていたのは、どうやら何かの粉末のようだった。