My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
弾けるように顔が上がる。
まさか双子を追ってやって来たのかと、声が聞こえた方角へと振り返る。
「ユ───」
『おい雪ッ!』
瞬間、罵声は目の前で轟いた。
あまりの剣幕に雪の口も閉じる。
しかし目の前に鬼のような形相の、罵声を飛ばす時の見慣れた神田の姿はない。
いるのは肩の上で待機していたティムキャンピーだけ。
声はそこから鳴り響いていた。
『聞こえてたら返事しろ!死んでたら張っ倒すぞ!』
『何言ってんですか、死んだら張り倒すも何もないでしょ!それよりティム、今何処にいるんだ?雪さんはっ?』
『あ?っせぇな、顔近付けてくんなクソモヤシッ』
『神田になんか近付けてません、その通信ゴーレムにですッ』
神田だけではない、もう一つの声が威勢よく横入りしてくる。
それもまた雪のよく知る人物の声だった。
声だけではない、その幼稚な掛け合いもよく知っている。
さながら子供の意地の張り合いのような、下らない喧嘩だ。
よく知った二人の罵声が、喚くようにティムキャンピーから鳴り響いている。
「(なんだ、通信ね…)驚かせないでよ、ティム」
どうやら神田の持つゴーレムと、ティムキャンピーが通信を繋げただけだったようだ。
大きな落胆と、傍で喧嘩する二人がいないことへの僅かな安堵に、肩が大きく下がる。
手を差し出せば、ぽちょんと行儀よくティムキャンピーがそこへ着地する。
ぎゃあぎゃあと喧嘩する二人の声に、しかし自分の生存は知らせねばと雪は仕方なしに口を開いた。
「こちら雪。聞こえてるから喧嘩は止めて」
『『!』』
煩く喚いていたが耳は機能していたようだ。
雪の声に、ティムキャンピーの向こう側にある二つの声が止まる。
続け様に身の安全を知らせようとした時だった。
ふっと、雪の体に大きな影が掛かる。
この感覚は二度目だ。
返事をしようとした口を閉じ、恐る恐る見上げた先には、山男のような風貌の巨人ハグリッド。
「なんだァその生き物…!見たことねぇ!」
もじゃもじゃの髭と髪で半分埋もれている顔の、小さな二つの目が盛大に輝いている。
ハグリッドが期待に満ち満ちた目で見ているのは、雪の手に乗ったティムキャンピーだった。