My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「いのせんすってものも聞いたことがない。君らは何者なんだい?」
「僕らは話した。次はユキの番だぜ」
「…それは…」
背を折り左右から覗いてくる息ぴったりな双子の問い掛けに、どう応えたものかと考えあぐねる。
カラン、カラン
本日二度目の訪問者を告げるベルの音が響いたのは、その時だった。
どしん、と重い足踏み。
曇り硝子の向こうに映った影は、凡そ人の影とは思えない程の小さな山のよう。
思わず後退ろうとした雪の腕を掴んだのはフレッドだった。
「え、何───」
「ユキ、そこに入って!」
「うわ…!」
あれよあれよと彼の手により、レジカウンターの下に押し込まれてしまう。
しかし雪の体がカウンター下に押し込まれるより、小山が店内へと踏み込む方が一歩早かった。
「何しとるんだ、ん?」
どしん、どしんと重い足踏みが鳴る。
軽々とレジカウンターの上から中を覗いた小山の影が、雪の体をすっぽりと覆ってしまった。
半端に中腰の体制のまま、恐る恐る見上げた雪の目に映ったのは、顔を半分覆う程のもじゃもじゃの黒髭を生やした大男。
「誰だ?お前さん、見ねぇ顔だな」
「え…えと…というか貴方が誰で」
「やぁハグリッド!まさか僕達の店に来てくれるとは驚いた!」
「彼女は僕らのお得意さんさ。さ、注文はいつものやつかい?」
「う、わっ」
突然現れた山のような男に雪が尻込みをしていると、今度はジョージに腕を引かれ彼の背後へと押し込められてしまった。
フレッドが相手をしている大男は、どうやらハグリッドという名らしい。
「もしかして店を畳めなんて言いに来たんじゃないだろうね?」
「フン!オレはそんな野暮なこたぁ言わねぇ。お前さんらがオレの森をこれ以上荒らしたりしなけりゃな!」
ふんぞり返るように胸を張り立つハグリッドは、更に大きな山と見える。
大柄な人間なら、エクソシストのマリやファインダーのバズで見慣れているはずだった。
しかし彼らの体を遥かに越える巨体に、雪は半ばジョージの背中に隠れたまま、まじまじと見上げた。
さながら巨人のようだ。