My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
謎の店の外にあったもの。
それはリヴァプールで見掛けていた港街の景色ではなかった。
煉瓦の道に、沢山の人が所狭しと行き交っている。
それだけならばリヴァプールと変わらない。
しかし決定的に違うところは、行き交う人々の身形。
大半の人物が長いローブのような物を纏い、大きな三角帽子を被っている者もいる。
それは雪のイメージにある、空想上の魔法使いという存在の姿にも似通っていた。
勿論、フレッドとジョージのように極々普通の私服姿の者もいた。
しかし梟の入った鳥籠や、掃除道具にしては立派過ぎる大きな箒や、先程双子が見せてくれた杖のようなものを腰に差し持ち歩く者も。
雪の目が釘付けとなったのは、その景色が物珍しかったからではない。
知っていた。
マグルという言葉がなんなのか、唐突に思い出す。
知っていたのだ。
覚えがあった。
それは、余りにも現実離れした物語だったけれど。
「…ハリー・ポッターだ…」
世界中でベストセラーとなった、あのファンタジーの物語を。
「…今の聞こえたか?」
「ああ、ハリーの名前だ。彼女、ポッタリアンだぞ」
窓に張り付き呟く雪の声を、双子は聞き逃さなかった。
まじまじと雪の背を見ながら互いに顔を見合わせる。
「知ってるの?ハリー・ポッター」
「知ってるも何も…」
「まぁ、他人じゃないしね」
「じゃあ此処ってもしかして、ハリポタの撮影現場とかっ?」
「「………」」
先程の厳しい顔は何処へやら。
キラキラと輝きも垣間見える視線を向けてくる雪に、双子はまたも顔を見合わせた。
「凄い!私あの物語、好きだから」
「…へぇ…そりゃ嬉しいことで」
「僕達の世界も有名になったもんだ」
無言は肯定と取ったのだろう、再び窓に張り付く雪に、双子の顔は白けたものへと変わる。
「今撮影中なの?」
「あー…いや、そういう訳でもないけど…」
「じゃあちょっとだけ見学でも」
「待った!やっぱり撮影中だったんだ!」
「だから外は駄目だって!」
しかし笑顔で雪がドアノブを掴めば、即座に再度二人の歯止めが掛かる。
どう足掻いても店の外には出したくないらしい。