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My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



再び一度だけ目配せをすると、動きを見せたのはフレッドだった。
紙袋をレジカウンターに置いて、懐から取り出したのは木材で出来た一本の杖。
30cm半ば程の長さで、持ち手の部分はツボ押しのように凸凹に仕上がっていて掌を刺激しそうだ。
しかし本人は慣れているのか、気にした様子はない。



「これさ」

「…その杖が何」

「見ろ、ジョージ。彼女やっぱりマグルだろ?」

「まぐる?」



フレッドは何を言っているのだろうか。
知らない単語だったが、何かが引っ掛かる。
首を傾げる雪の姿にどこかほっとしたように頷くジョージもまた、懐から別の形の杖を取り出した。
持ち手に網目上のデザインが施された、お洒落な杖だ。



「これであのリヴァプールから此処まで飛んだのさ。移動魔法ってやつ」

「移動……魔法?」



教団の中ではとんと聞いたことのない単語だ。
しかし確かに彼は"魔法"と言った。
アレンやノアが扱える方舟の能力とは違う。
しかしその杖を振り魔法と称すものを扱う架空上の生き物は、余りにも有名だった。



「…魔法使い?」



ファンタジーな物語をよく生み出すイギリスならではの名称。
ぽかんとした顔で尋ねる雪に、双子は同時に頷いた。



「………」

「ユキ?」

「おい、固まったぞ。大丈夫か?」

「…帰る」

「「!」」



唖然と口を閉じたのも束の間、くるりと踵を返す雪に双子は慌てた。



「帰るったって、此処はリヴァプールじゃないから!」

「外に出るのは待った!」

「魔法なんてそんな安易な嘘、信じる訳ないでしょ!帰るったら帰る!」



両側から伸びた四つの手に捕われれば、外に飛び出すことができない。
窓の取っ手に手を伸ばす雪を、双子が渾身の力で歯止めに掛かる。

外に出れば多少距離があろうとも、身一つで帰ることができる。
とにかくこの場から出て、仲間と合流しなければ。
そう奮闘する雪の目が窓の外に向けば、暗い瞳が大きく見開いた。



「帰さないなんて言ってないだろ、落ちつ……あれ?落ち着いた」

「ユキ?」



ぴたりと動かなくなる雪に、何事かと両側から覗く双子の視線。
しかし雪の目は窓の外の景色に釘付けのままだった。

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