My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「君、格闘家だったりする?随分と馬鹿力だけど…ッ」
「そんなに力入れてないから。これは梃子の原理。女だってやり方次第でいくらだって男を倒せるのっ」
「わかった、わかりました、降参します!喧嘩する気なんてこれっぽっちもないんだけどッ」
「じゃあなんで逃げたわけ!そういう態度取られるからこっちも───」
カラン、カラン
二人の掛け合いを止めたのは、突如として開いた部屋のドアだった。
どうやら此処は何かの店なのか、ベルの付いたドアが開き訪問者を知らせる。
ぴたりと動きを止めた雪達の目が向いた先には、ドアの曇り硝子に一つの影。
店内に踏み込んできたのは、大きな紙袋を抱えた一人の青年だった。
「はーぁ、また蛙ミントが手に入らなか…」
溜息を付きながら紙袋の中から、掌サイズの五角形の箱を取り出す。
肩を下げつつ踏み込んだ先で、青年の目が二人で止まると同時に声も止まった。
「「「………」」」
見つめ合う。
沈黙は一秒。
「は、あ?」
真っ先に声を上げたのは雪だった。
マウントを取っていた赤毛の青年の腕を拘束するのも忘れたかのように、目の前の青年を震える手で指差す。
「お、同じ…!?」
紙袋を抱えた青年は、燃えるような赤毛に緑掛かった瞳とそばかす跡の残る頬。
それは雪に下敷きにされている青年と、瓜二つの顔をしていたのだ。
「あちゃあ……バレたか」
「…なんで此処に彼女がいるんだ?」
「これは話すと長くなるんだ、兄弟」
「兄弟って、まさか…双子!?だから…っああッわかった!」
反応を見る限り、どちらも雪のことを知っている。
それで全ては合点がいった。
何故二度目の出会いで雪のことを青年が憶えていなかったのか。
理由は簡単だ。
本当に知らなかったのだ。
何せ一番最初に出会った青年は、同じ顔の別の人物だったのだから。