My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
───どふんッ!
着地音はそんな腑抜けた音だった。
「あだッ!」
悲鳴を上げたのは雪自身ではない。
柔らかい何かに跨ったまま、その下から聞こえた鈍い声。
最後に雪が見た景色は、路地裏の陰へと逃げ込む赤毛だった。
それを捕まえる為に手を伸ばし触れた袖の先。
刹那、体は何かに引っ張られるようにして一気に目の前の景色が高速で回ったのだ。
ぎゅるりと、上も下もわからない、体が一瞬浮くような感覚。
次の瞬間には、腑抜けた音が着地を知らせてくれた。
「は…な、に?」
一体何が起こったのか。
理解が追い付かず、雪はその場に座り込んだままぽかんと辺りを見渡した。
其処は店や住居が建ち並ぶ屋外ではなかった。
壁には色とりどりのペイントが施され、棚には見たことのない玩具のようなグッズが並んでいる。
広さはあるのだろうが、並ぶ品物が多い為天井さえも狭く感じる。
見上げれば、天井では見覚えのない生物が飛び交っていた。
「何…あれ」
それはドラゴンのような形をしたカラクリ仕掛けの玩具であったり、封筒のような紙切れであったり。
ただ空中を浮遊しているのではなく、まるで生き物のように鳴きながら飛び交っているのだ。
前後左右、天井さえも。
AKUMAの姿もエクソシストの姿も沢山の一般人の姿もない。
まるで一瞬にして不可思議な夢の中にでも連れ込まれたようだ。
一体全体、此処は何処なのか。
「そういうことは、とりあえず下りてから言ってくれないかなぁ…」
「!」
真下から聞こえる鈍い声と、跨っていた柔らかい何かが蠢く。
視線を落とせば、雪が馬乗りになっている状態で赤毛の青年が潰れているのを発見した。
ぽかんと見下ろすこと約一秒。
「確保っ!」
「えッ」
馬乗りのまま腕を背中に捻り上げれば、赤毛は驚き振り返った。
「あんたが何かしたんでしょ、何此処!」
「勝手について来たのは君の方だろ!逃げ切ったと思ったのに…っ」
「ついて来たって何。やっぱり何かしたんだ…!元の場所に戻して!」
「じゃあその手を放してくれないかなぁ!」
体格は遥かに赤毛の青年が勝るが、うつ伏せにマウントを取られている以上雪の手からは逃れられない。