My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「いっでェ!?!!」
「っと、と…!」
ドシン!と地響き。
受身を取れずに地面に落下したAKUMAの頭が、ぐわんぐわんと揺れる。
同じく地面に着地した雪は、どうにか体制を整えつつ足踏みを鳴らした。
とんとんと小走りに躍り出た先には、目的の人物が驚きの顔で立っている。
雪と、彼女の背後で倒れている巨大なAKUMAを見返しながら、息を呑むようにして青年の足は一歩後退った。
建物の陰が掛かる其処は、狭い裏路地の入口。
「テんメェ…!よくも!」
「待て…っ!」
頭を抱えながら体を擡げたAKUMAが、雪に向かって吠え立てる。
同時に背中から滑り込むように陰へと身を落とす青年を追うように、雪もまた地を蹴り上げた。
伸ばした手が青年の体を追い、袖の布地へと微かに触れた。
その雪へと迫るはAKUMAの手。
「貴様の相手は私だ」
「あァ!?なんだァ次から次へと!」
真黒なマントを靡かせ、ふわりと雪の姿を隠すようにAKUMAの手の甲に降り立ったのはクロウリーだった。
口元に滴る赤い液体をべろりと舐め上げ嗤う。
「始末は任されたのでな」
「始末?一体な…ん…?」
「尤も、もう済んだことだが」
イノセンスの牙を持つクロウリーにとって、AKUMAの体内オイルは甘美な食。
AKUMAも気付かぬ速さで噛み付き、じゅるりと咥内に残っていた最後の一滴を飲み干せば、時間差となってその異変は訪れた。
「あぁ…あ…!」
巨大な丸太のようだった腕が、忽ちに枯れるように萎んでいく。
骨と皮だけと化していくAKUMAの体は、全ての水分を吸い出され一瞬にして弾け飛んだ。
「フン。他愛のない」
地に着地したクロウリーは、冷たくAKUMAが消えた跡を見据え振り返る。
暗い路地裏には追っていた赤毛の青年がいる。
「…む?」
いたはずだった。
雪が確かにその手で触れた瞬間を見た。
彼女の手によって捕獲されずとも、出口のない袋小路の路地では逃げ場はない。
しかしクロウリーの目は、彼を捉えることができない。
「雪?」
それは白いマントの彼女の姿さえ。
忽然と二人の姿は、その場から消え去っていたのだ。