My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「男に二言はなしですよ?」
「うっせぇな。上等だコラ」
爽やかな笑顔を浮かべるアレンと、鬼のような物騒な面構えの神田。
相反する表情の間に飛び散る火花に、雪は身を退きつつアレンに感謝した。
時には喧嘩っ早い関係性が都合良いこともあるものだ、と。
「これで上手くあの芸術の間に忍び込めれば、絵画は念入りに調査できるけど…ついでにあの赤毛が舞踏会に参加してくれればなぁ」
「そんなに引っ掛かるのであるか?」
「うーん…勘?なんとなくね」
肩から手元へと移り渡ったティムキャンピーが、ぽちょんと落下するように飛び降りる。
目の前の食べかけパスタにがっつき始めるティムの姿を見つめながら、雪はクロウリーの問いに腑に落ちない表情を浮かべた。
「ティム、映像見せてくれる?」
「ガ、」
一声掛ければ、パスタソースだらけにした口をぱかりと開く。
鋭利な歯の間から映し出された映像には、ティムキャンピーが記録した赤毛の青年が映し出されていた。
「この映像を見せても、街の人は知らないって言うし…本当に現地の人じゃないのかも」
「余所から来たと言っていたであるな…もう帰ってしまったのではないか?」
「うーん…そうは思えないんだよね…」
「それも勘?」
「うん」
クロウリーとリナリーの視線が左右から向く中、腕を組んで深く頷く。
ただ金目の物目当てに屋敷に侵入したようには思えない、謎の赤毛男。
イノセンスと関係しているのか答えははっきり出ていないが、微かにでも取っ掛かりは感じる。
「リナリー達も情報は得られなかったんだよね?」
「うん、残念だけど」
「私もである」
「うーん…」
三度目の溜息を零した時だった。
「僕その人、知ってるよ」
求めていた返答が耳に届いたのは。
「「「え?」」」
急に望んだ答えが届き、雪とリナリーとクロウリーの顔は一斉に其処へと向いた。
「はい?」
其処には神田と火花を散らせていたアレンの姿が。
「僕見たもん、その人っ!」
「わっ?」
声変わりのしていない甲高い声は、アレンからではなくその背後からだった。
ぴょこんっとテラスの柵から身を乗り出し声を掛けてきたのは、見知らぬ少年。