My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「もう、兄さんったら…」
「でも僕も見たいです、リナリーのドレス姿。綺麗なんだろうなぁ」
「ァ、アレン君まで…っ」
(ナイスアレン)
両手で赤い頬を押さえるリナリーの姿に、ほんわかと笑顔を向けるアレンの姿は仲睦まじい。
どう見ても良い雰囲気に向かっているであろう、その場の空気に雪は内心親指をおっ立てた。
否定的空気など感じない。
これなら神田も参加する他あるまい。
「俺は絶対やらねぇ」
がしかし、彼には場の空気を読むという機能は備わっていなかったようだ。
ばっさりと切り落とす低い声に、その場の空気が一瞬止まる。
「…ちゃんとユウに合うドレスコードも用意したからさ」
「やらねぇ」
「皆一緒。怖くない」
「俺はガキか!やらねぇ!」
(((充分子供だ)))
恐る恐る雪が顔を向ければ、其処にはやはり仏頂面の神田がいた。
雪の誘いでも一切乗る気のないこの大きな子供を、説得させるのは難しい。
皆の目が子供を見守る中、仕方ないと雪は溜息をついた。
「そっか…残念。アレンは参加してくれるのにね?」
「え?ハイ」
ぴくりと神田の動きが止まる。
急にふられたアレンは目を瞬くも、すぐに綺麗な笑顔を浮かべて頷いた。
「安心して下さい、神田。僕が雪さんをしっかりエスコートしてきますから」
「…………あ"?」
ぴき、と神田の額に青筋が立つ。
「雪さんのドレス姿、凄く楽しみです。ぜひ僕と踊ってくれませんか?」
「私でアレンに釣り合うかな」
「宴の華ですから、女性なら誰もが主役ですよ。だから雪さんの特別な時間を僕に───」
ガンッ!
向かいに座るアレンが左手を胸元に添え、右手を雪へと差し出せば。
擦れ擦れで伸ばしたアレンの指の隙間に振り下ろされたのは、光る銀のフォーク。
見事に机に突き刺さり、勢いで微かに振動している。
「…上等だ…」
フォークを机に突き刺した張本人から、ゆらりと立ち上る殺気。
射殺すような鋭い視線をアレンに向けて、神田は立てた親指を真下に突き下ろした。
「やってやる」
(((…やっぱり子供だ)))
大きな子供を動かすには、どうやら喧嘩相手が効果的だったらしい。