My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「少し前に戻って来てたから」
「戻ってきたって、何処から?」
「リッチモンド邸」
「やはりですか。大方、あの絵画を見張らせていたのでしょう」
「うん」
トクサの読み通り、雪がティムキャンピーに命じたのは例の絵画の監視だった。
ティムキャンピーなら人知れずその記録機能で、絵画を悉に観察することができる。
「でも期待外れだった」
「というと…」
「絵画に奇妙なところは一切なし。絵画は絵画だったってこと」
しかし三日間、一時も目を離さずにいたティムキャンピーの記録映像には、決定的な瞬間など映っていなかったのだ。
「偶々なのか、それとも奇怪は単なるガセか…」
後者であれば、今までの努力は水の泡と化してしまう。
期待外れな任務は今までにも沢山経験してきたが、だからといって気持ちが沈まない訳ではない。
努力が無駄とわかれば凹むものは凹む。
はぁ、と重い溜息をつく雪に、フードの中にいたティムが寄り添うように肩へとよじ登り身を寄せてくる。
慰めてくれているのだろうか。
指先で金色のボディを撫でながら、雪は力なく笑顔を返した。
「見切りを付けるにはまだ早いでしょう」
「そうなんですよねー…だから別の手に打って出ようかと」
「別の手ですか?」
「うん」
籠の中からバケットを取り、オリーブオイルに浸して齧る。
蜂蜜が混じったオイルソースはほんのりと甘みもあり、バケットに染み込み尚美味い。
更に一口齧りながら、雪はリンクへと案を提示した。
「やっぱり現地調査が一番有力だから、もう一度あの屋敷に行きます」
「でももう舞踏会も近いし。前より準備で忙しいだろうから、伯爵は取り入ってくれないんじゃないかしら?」
「そう、それ」
「え?」
首を傾げるリナリーににっこりと笑うと、雪は残りのバケットの欠片を口に放り込んだ。
「その舞踏会を利用しようと思って」