My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「───結局、むぐ。誰もこれと言った収穫は、もぐ。なしですか」
「リッチモンド伯爵は有名だから、その話は沢山聞けたんだけどね…神田、そこのドレッシング取って」
「三日間無駄足だったんじゃねぇのか。…蕎麦はねぇのかよ」
「こんな所にある訳ないでしょう。では情報交換を」
賑わう人々が行き交う街並み。
すぐそこに人の活気を感じながら、合流したアレン達はテラスで遅い昼食を取っていた。
長テーブルに山盛りに積み上げられた料理を次々と平らげていくアレンの隣で、リナリーは小さな溜息をつく。
リッチモンドの噂は色々あれど、有力なイノセンスの情報は得られなかったからだ。
リンクに促され情報を伝え合うも、動く絵画の噂も曖昧なものばかり。
女の絵だと言う者もいれば男の絵だと言う者もいて、果たしてリッチモンドが見せたあの婦人の絵が噂の元なのかすら怪しい。
「リッチモンドとか言う伯爵、豪勢な宴を開く割に長い間独り身らしいですわ。財産目当ての女が後を絶たないだとか」
「私は、趣味に没頭するあまり、伯爵は女性に興味がないと聞いたである」
「あの趣味ですとねぇ…そのうち絵画と結婚するんじゃありませんか?」
トクサの嫌味は強ち嫌味でもない。
高揚とした表情で婦人の絵を見つめていたリッチモンドは、持っている大半の愛情をそちらへ注いでいるように思えた。
「うーん、にしても肝心の赤毛の男の情報はなし、か…」
ちゅるりと海鮮パスタを喉に通しながら、その美味とは裏腹に雪は肩を下げる。
緑目に赤毛の青年など何処にでもいる。
それだけの情報で目的の人物に辿り着くのは難しい。
「ふぉういえば雪ふぁん、ティムは?」
「ああ、うん。ここにいるよ」
三日前に雪に預けた金色のゴーレムは、最近姿を見せていない。
ミートパイを一口で飲み込みながら尋ねるアレンに、ここ、と言って雪は首を捻った。
ひょこりと雪の下げたフードの中から姿を現したのは、今し方呼ばれたティムキャンピー。
その口にはパスタに盛り付けられていたアムール貝を咥えていて、ガリガリと咀嚼している。
人知れず目の前の食事に参加していたらしい。