My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
バシリと神田の手が簪を叩き落とす。
「わー!何すんの!?」
「それは俺の台詞だッお前もあの男と同じじゃねぇか、女扱いしやがって」
「だからってなんで叩き付けるかな!?これ商品なのに…っああ!パールが欠けてる!」
「毎度あり〜」
「ですよねそうなりますよね!ごめんなさいこれ買います!」
怒り任せの神田に叩き落とされた簪は、床に叩き付けられた衝撃で装飾のパールを欠けさせてしまっていた。
弾かれた欠片を探そうと辺りに雪が目を配るも、それはもう不可能に等しい。
「ユウの所為だよ、ユウがお金出して」
「んなもん教団の経費に回」
「髪飾りが経費になる訳ないでしょ!Gの損害賠償でただでさえ金欠なのにっ」
「…チッ、貸せ」
「あっ」
雪の手から引っ手繰るように簪を掴むと、足早にレジカウンターへと向かう。
先程までのほんのりと甘酸っぱい雰囲気は何処にもなく、そんな神田の背中にはつい溜息が振りかかった。
「あーあ、少しはマシになったかと思ったのに。クロウリーの壁は神田には高過ぎましたね」
「経費なんて言ったら女の子は興冷めだよ。やっぱり神田は神田ね」
「はは…手厳しいであるな、二人共」
見送る雪の口から、ではなく。
店の外から伺う二つの影から。
「なんなんですのあれ。仕事中に乳繰り合うなんて、目障りですわ」
(((乳繰り合う?)))
店外の影は一つ二つ三つと四つ。
エクソシスト三人とサードエクソシストが一人。
顰めっ面のテワクの放った言葉に、アレン達の疑問視が一斉に向く。
「私、一応あの二人についてたんですが。思いっきり空気扱いですねぇ…………どれ、」
「わざと空気を乱しに行くのは止めろ。トクサ」
「おや?珍しいことを言う」
「どうせもう出てくる」
更に五つと六つ。
監視役としての仕事も担っているトクサとリンクの姿もあった。
皆の目が向いているのは、硝子張りの店内の中。
購入した簪を神田からぶっきらぼうに押し付けられている、雪の姿だった。
乳繰り合うには程遠い二人の姿だったが、決して悪い光景ではない。
やがて店内から出てきた雪が集う視線を見つけて、挙動不審に慌てるのは15秒程先のことだった。