My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
(日本って、確か閉鎖的な国だったと思うけど…ここまで文化が伝わるなんて、凄い国だなぁ)
それだけこの都市の持つ力の大きさが伺える。
まじまじと雪が簪を見つめていると、神田が白銀色のそれを目の前に翳した。
「本場のもんじゃねぇけど、その国の味を持ってる。お前の親と同じだろ」
ちり、と神田の手の中で揺れる小さなホワイトパール。
神田が何を言わんとしているのか、なんとなく感じ取ると雪は唇を結んだ。
国籍など気にしないと発言していた神田がそこに拘ったのは、雪の親への思いを知っているからだ。
知っていて、尚その気持ちを汲んでくれたから。
「…うん」
神田が選んだ物ならなんでもよかったはずなのに、そこに混じる彼の心遣いを知ると目の前の簪にしか目が向かなくなった。
頷く雪が手を差し出せば、ぽんと手渡される。
「綺麗な透かし柄だね」
「それは柊の簪だよ。力強い葉を広げるのに、小さな可愛らしい花を幾つも咲かせるんだ。似合うんじゃないかい?」
「へぇ…柊」
名前だけなら聞いたことがある。
店主の声を耳に簪を見下ろした雪は、控えめに神田を手招きした。
「なんだ」
「一度付けてみたいなって。似合うかわからないし…」
「へえ?俺に選べなんて言った癖に、似合う似合わない気にすんのかよ」
「そうじゃないけど、でも周りに笑われたりしたら、その、嫌でしょ?」
「そんな奴放っとけ」
「いいから、ユウ」
「ったく。しゃあねぇな」
付けろと言っているのだろう。
仕方なしにと手招きされるまま傍に寄れば、更に指先で傍にと指示された。
「顔、こっち寄せて」
「ハイハイ。ほら、それ貸せ」
「いいから動かないで」
「は?なん───」
さらりと流れる癖のない漆黒の髪。
そこに白い光沢の花はよく映える。
神田の耳の上に添えるように簪を当てると、雪は満足そうに笑った。
「うん、似合うね」
「って俺かよ!」