My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
神田なりの気遣いなのだろう。
クロウリーのようなスマートさはなくても、そこに彼の思いを感じると雪の胸は自然と熱くなった。
大きな嬉しさと、ほんの少しの照れ臭さとが入り混じって。
「前も見てただろ、似たようなやつ」
「ぅ、うん…」
それは神田の伝えてきた花と同じだったから、とは言えず。
雪は返事も曖昧に視線を髪飾りへと落とした。
「じゃあ…ユウは、どういうのが好き?」
「あ?」
「ユウが好きなデザイン。私、知りたい」
「俺は別に───…」
装飾品などに興味はないし、女性物は以ての外だ。
せいぜい自身の長髪を結ぶ紙紐くらいになら目は向くが、今では愛用している雪から貰った髪紐以外に特別視する物はない。
だからそんなものないと断るつもりだったが、期待に満ちた目で見てくる雪を前にすると声は萎んでしまった。
自分が好きなものと言われても思い浮かばないが、雪が身に付けるものとなれば見繕ってもいいだろう。
髪飾りのコーナーを見渡すと、神田は雪の姿を改めて思い浮かべた。
東洋人独特のきめ細やかな肌に、吸い込まれそうな暗い瞳。
髪色もアレンやラビのように派手な色ではないが、太陽に透けると天使の輪がふわりと表れる綺麗な髪だ。
「………」
「それ…簪?」
暫くして神田が手にしたのは、白銀色の玉簪だった。
シンプルな細長いシルエットに、先には透かし柄の花模様の玉が付いている。
更に頭には小さなホワイトパールが揺れていて、控えめながらも洒落た簪だ。
「なんで簪?」
「日本。自分の国だろ」
「まぁ……簪のこと知ってたんだ?」
「お前…どんだけ俺を馬鹿だと思ってんだ」
「そ、そんなこと言ってないよ。ただ意外で」
「リナの傍にいればな。あいつ、こういうの好きだから」
溜息混じりにぼやく神田に、成程と雪は納得した。
リナリーが幼馴染みであれば、神田が普段気にも止めない髪留めのことを熟知していても頷ける。
「でもリヴァプールで簪を見かけるなんて珍しいね」
「此処は貿易の都だからね。色んな国の情報が流れ込んでくる場所なんだよ」
会話が聞こえていたのだろう、声を掛けてきたのは、カウンターに座っていた人当たりの良さそうな中年女性だった。